こんにちは、trans(トランス)です。
今回は、示差熱分析によって硫酸銅(Ⅱ)5水和物の脱水過程を確認する実験について解説いたします。
まず、示差熱分析の章では、熱分析や示差熱分析の原理や目的について解説いたします。
次に、CA熱電対の章では、CA熱電対とは何であるか,CA熱電対の温度と起電力などを解説いたします。
最後に、硫酸銅(Ⅱ)5水和物の章では、硫酸銅(Ⅱ)の結晶水や実際の示唆熱分析の利用方法について解説いたします。
実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて、予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。
レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことに興味があれば、読んでみてください。
それでは行きましょう!
1、示差熱分析
熱分析とは、物質の温度を一定のプログラムによって変化させながら、その物質特有の性質を時間または温度によって分析することです。代表的な熱分析には、示差熱分析,熱重量分析,気体発生分析などがあります。
また、示差熱分析とは、Differential Thermal Analysis(DTA)のことで、試料及び基準物質の温度を一定のプログラムによって変化させながら、その試料と基準物質との温度差を温度の関数として測定する熱分析の1つです。今回は試料に硫酸銅(Ⅱ)5水和物,基準物質にアルミナ粉末を試料して、硫酸銅(Ⅱ)5水和物の結晶水が脱水していく工程を確認します。
次に、示差熱分析の原理ついて解説いたします。
示差熱分析は下図のように、温度を加えても化学的変化起こらない基準物質と温度を加えることで化学変化が起こる試料を示差電熱対によって繋いだ状態で行われます。
加熱炉によって温度が上がっていくと、系内の物質温度も当然上昇します。しかし、ある温度で試料が特定の変化を示します(今回であれば、結晶水の脱水反応です)。この反応が起きているときは、試料の温度上昇が停止するので、基準物質と温度差が生じます。
この温度差を示差電熱対(種類の異なる金属導体)が受けると、熱起電力という電流が生じます。この熱起電力から試料と基準物質の温度差を算出することができます。
横軸の経過時間(温度)に対して縦軸に温度差(ΔT)を取り、DTA曲線を作成することで、温度上昇による物質変化を測定することができます。
2、CA熱電対
1つ前の章で解説したように、種類の異なる金属導体が温度差を受けると熱起電力という電流が発生します。
この種類の異なる金属導体のことを電熱対といい、CA電熱対,CRC電熱対,IC電熱対,CC電熱対など様々な種類があります。
今回の実験では、CA電熱対を使用しているので、こちらについてのみ紹介いたします。
CA電熱対とは、+側にCrを10 %含むNiとCrの合金(クロメル),-側にAlとMnを含んだNiの合金(アルメル)を用いた電熱対のことです。
耐熱・耐食性が高いので、工業用として最も広く使用されています。
次に、CA電熱対の温度と起電力について解説いたします。
以下のリンクから見られる表のKをご覧ください。ちなみに、CA電熱対は別名K熱電対とも呼ばれています。
引用:熱電対の規準熱起電力表
例えば、4,509 μVの熱起電力が発生したとします。その場合、表の横軸は10 ℃、縦軸は100 ℃ですので、試料と基準物質の温度差は110 ℃ということになります。要するに、得られた熱起電力に近い場所を表から探し、それに対応する縦軸と横軸の温度を足した値が、試料と基準物質の温度差ということになります。
3、硫酸銅(Ⅱ)5水和物
まず、硫酸銅(Ⅱ)5水和物の結晶構造について解説いたします。
硫酸銅(Ⅱ)5水和物は、以下のようにCuの周りに4つの配位水、SO₄に1つの陰イオン水(0.5×2)があり、合計5つの結晶水を持っています。結晶水を4つと1つに分類することができるので、[Cu(H₂O)₄]SO₄・H₂Oと表すことができます。
硫酸銅(Ⅱ)5水和物が持つ、[Cu(H₂O)₄]²⁻が青色を呈しています。つまり、脱水反応が進むにつれて、青色が薄くなっていき、最終的に無水和物になると白色になります。
次に、実際に実験で得られたDTA曲線を使った硫酸銅(Ⅱ)5水和物の分析ついて解説いたします。
以下の図を見ると、50~90 ℃,90 ~120 ℃,200~220 ℃に、それぞれピークがあることが確認できると思います。説明の便宜上、それぞれのピークを、ピーク1(50~90 ℃),ピーク2(90 ~120 ℃),ピーク3(200~240 ℃)とします。
それぞれのピークが硫酸銅(Ⅱ)5水和物から結晶水が脱水してる場所で、中央値を脱水温度とすると、75 ℃,105 ℃,220 ℃ということになります。
次に各ピークで、どれだけの結晶水が脱水しているか確認していきましょう。確認の仕方は簡単で、それぞれのピークの面積比によって求めることができます。ピーク面積とは、ピークの開始から終了までの距離を底辺、底辺からピーク頂部までの距離を高さとして、求めた三角形の面積のことです。
上記に従って計算するとピーク面積比は、ピーク1:ピーク2:ピーク3 = 2:2:1となることが分かります。
ここまで得られた情報を総合すると、今回の実験で得られたDTA曲線から、硫酸銅(Ⅱ)5水和物は、75 ℃で2つの水分子,105 ℃で2つの水分子,220 ℃で1つの水分子が脱水し、最終的に硫酸銅(Ⅱ)無水物になるということが考察できます。
なぜ、2個,2個,1個の順番で水分子が脱水するかについても調べてみましたが、残念ながら分かりませんでした。もし、分かる方がいたら、ご教授をお願いいたします。
引用:イオン性結晶の動き
最後に今回の実験で使用した硫酸銅(Ⅱ)5水和物の重量変化について解説いたします。
今回は、1 gの硫酸銅(Ⅱ)5水和物を使用して示差熱分析を行ったとします。
1 gの硫酸銅(Ⅱ)5水和物の物質量は、硫酸銅(Ⅱ)5水和物のモル質量が、249.7 g/molであることから、1 ÷ 249.7 ≒ 0.004 molということが分かります。
示差熱分析で最終的に、モル質量159.6 g/molの硫酸銅(Ⅱ)無水物となりますので、1 gの硫酸銅(Ⅱ)5水和物を使用して示差熱分析を行った後の質量は、0.004 × 159.6 ≒ 0.64 gとなることが分かります。
つまり、硫酸銅(Ⅱ)5水和物の重量は、示差熱分析後に約36 %減少することが分かります。
過去に、「硫酸銅(Ⅱ)の合成 ~硫酸銅(Ⅱ),実験操作~」という記事を書いていますので、興味のある方は、こちらもご覧ください。
4、~まとめ~
いかがでしたか?
今回は、示差熱分析によって硫酸銅(Ⅱ)5水和物の脱水過程を確認する実験を、示差熱分析,CA電熱対,硫酸銅(Ⅱ)5水和物という3つのキーワードから説明しました。どの章も重要なのでしっかりと抑えておきましょう。
また、参考文献は以下の通りになります。
1、中垣正幸「科学の領域増刊106 “水の構造と物性”」南江堂、1974年、P55
最後になりますが、参考文献以外はコピペ厳禁です。バレます。気を付けてください。自分で理解してまとめてください。
また、完全に情報を網羅しきれていないと思いますので、質問等ありましたら、下のコメント欄にコメントお願いします。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。