こんにちは、trans(トランス)です。
今回は、ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物を合成し、その後、分析によってコバルト錯体と塩化物イオンの組成比を求める実験について解説いたします。
まず、コバルト(Ⅲ)錯体の章では、ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物を合成する方法やコバルトを中心とした錯体について解説いたします。
次に、モール法の章では、モール法の原理や今回の実験での利用方法を解説いたします。
最後に、キレート滴定の章では、キレート滴定の原理やコバルト錯体と塩化物イオンの組成比について解説いたします。
実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて、予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。
レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことに興味があれば、読んでみてください。
それでは行きましょう!
1、コバルト(Ⅲ)錯体
ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物とは、”[Co(NH₃)₆]Cl₃”という化学式で表されるオレンジ色の単斜晶系針状結晶であります。
この章では、ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物の合成方法や、それに必要な各試薬の量,コバルトを中心とした錯イオンの電子配置や化学結合,構造について解説いたします。
まず、ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物の合成方法について、解説いたします。
塩化コバルト(Ⅱ)に対して、塩化アンモニウム,アンモニア,過酸化水素を加えて、空気酸化することで合成することができます。反応式は以下の通りです。
2CoCl₂ + 2NH₄Cl + 10NH₃ + H₂O₂ → 2[Co(NH₃)₆]Cl₃ + 2H₂O
上記の化学反応式を基に、ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物を合成するのに必要な各試薬の量を求めていきましょう。
今回は、5 gのヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物を合成する場合に必要な各試薬の量を求めていきましょう。
ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物のモル質量は、267.5 g/molですので、5 g ÷ 267.5 g/mol ≒ 0.0187 molの合成が必要です。
塩化物コバルト(Ⅱ)と塩化アンモニウムは、ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物と同じモル比ですので、必要量は以下のようになります。
塩化コバルト(Ⅱ):0.0187 mol × 129.8 g/mol ≒ 2.43 g
塩化アンモニウム:0.0187 mol × 53.5 g/mol ≒ 1.00 g
アンモニアは、ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物の5倍のモル比で、25 %アンモニア水を使用しているので、必要量は以下のようになります。
アンモニア:0.0187 mol × 5 × 17.0 g/mol ≒ 1.59 g
25 %アンモニア水:1.59 g × 4 = 6.36 g
過酸化水素は、ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物の半分のモル比で、 30 %過酸化水素水を使用しているので、必要量は以下のようになります。
過酸化水素:0.0187 mol × 1/2 × 34.0 g/mol ≒ 0.318 g
30 %過酸化水素水:0.318 g × (10/3) = 1.06 g
ここからは、錯体について解説いたします。
ただ、錯体についてすべて解説すると記事1本では収まらなくなります。錯体を本気で解説しようとすると、大学の90分の授業を15回くらい行わないといけなくなります。
そこで今回はコバルトと中心に、しかも本当に要点だけを抑えて、他サイトの素晴らしい記事のリンクも交えながら、解説していきます。
錯体とは、金属に対して配位子が配位結合や水素結合しているものを言います。
基本的に、錯イオンの構造や形は、配位子(金属に結合するもの)の種類に関係なく、配位数(金属に配位子が結合できる数)と混成軌道によって決まります。
混成軌道については、詳しい記事があったので、こちらをご覧ください。
混成軌道を考えるうえで、電子配置は非常に重要になってきますので、コバルト(Ⅲ)イオンの電子配置を考えていきます。
まず、コバルトの電子配置は、「[Ar] 3d⁷ 4s²」で表すことができます。長いので、1s² 2s² 2p⁶ 3s² 3p⁶を[Ar]として表しています。
電子が入るときは、3d軌道の前に、4s軌道に入りますが、電子を取り去るときは遮蔽効果の関係で、原子核よりも遠い軌道から取り除かれます。
従って、コバルト(Ⅲ)イオンの電子配置はコバルトから3つ電子を取り去った形ですので、「[Ar] 3d⁶」となります。
ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)の錯イオンは、コバルト(Ⅲ)のd軌道を利用して、d²sp³混成軌道によって以下のような配位数6の正八面体構造をしています。
その他にも、[Ag(NH₃)₂]⁺はsp混成軌道を利用した直線型構造,[Cu(NH₃)₄]²⁺はdsp²混成軌道を利用した平面構造,[Zn(NH₃)₄]²⁺はsp³混成軌道を利用した正四面体構造などがありますが、構造についての話は、このあたりにしておきましょう。
2、モール法
モール法とは、沈殿指示薬としてクロム酸カリウム(K2CrO4)を加えて、硝酸銀水溶液を滴下することにより塩化物イオンを定量する沈殿滴定のことです。反応式は以下の通りです。
Cl– + AgNO3 → AgCl +NO3–
塩化物イオンが存在している間は、硝酸銀す溶液中の銀イオンは塩化銀として沈殿するため、存在しません。
しかし、塩化物イオンがなくなると、銀イオンがクロム酸イオン(CrO42-)が反応してクロム酸銀が生じ、赤褐色沈殿を示します。反応式は以下の通りです。
CrO42- + 2Ag+ → Ag2CrO4
また、以下の式によって合成したヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物の塩素含有量を求めることができます。
また、モール法については過去に以下の記事も書いていますので、合わせて読んでみてください。
3、キレート滴定
「なんで最初の画像がカニ?」って思いましたよね?
しかし、キレート滴定の原理とは、このカニのハサミのようなものなのです。説明に入る前に、このイメージを入れて読んでみてください。
キレート滴定とは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA),1,2-シクロヘキサン四酢酸(CyDTA),ニトリロ三酢酸(NTA)のようなキレート試薬のアルカリ属以外の金属イオンと高く安定性のあるキレート化合物を作る性質を利用して定量する分析方法です。
キレート滴定の説明をしましたが、意味分からなかったと思います。ここで出てくるのが先ほどのカニのハサミです。上記のキレート試薬のうち、EDTAが最も有名なので、これ以降の原理の説明はEDTAで行ないます(ちなみに今回の実験でもEDTAが使用されています)。
EDTAとアルカリ金属以外の金属イオンは以下のような反応をします。
上の図から分かるように、EDTAの4本のCH₂COO⁻ の腕と2個のNの非共有電子対が、カニのハサミが物を挟むように、金属イオンを囲んでいることが分かると思います。
つまり、EDTAと金属イオンが1対1で反応します。この性質を用いて定量を行うことが出来ます。EDTAを滴定していき、1 molで反応が終われば、金属イオンの存在量も1 molといったような形で定量することができます。
ここまでの説明でキレート滴定の原理は分かったと思います。しかし、ただEDTAと金属イオンを反応させても、どの段階で完全に全ての金属をキレートしたか判断することが出来ません。そこで、登場するのが金属指示薬です。
金属指示薬とは、キレート滴定において、どの量が当量点であるかを示す指示薬です。中和滴定におけるpH 指示薬のようなイメージで大丈夫です。
金属指示薬は、pH 指示薬同様に色が変化することによって当量点を知らせてくれます。この変色の原理について少し説明いたします。
金属指示薬は、EDTAよりも弱いキレート作用があります。また、キレート時と遊離後で色が変わります。つまり、滴定前は金属イオンにキレートしていてキレート型の色を持ちますが、EDTAを滴定し、当量点になると金属イオンから遊離していきます。遊離することで、遊離型の色になり変色が確認できるので、そこが当量点ということになります。
今回は指示薬としてMX(ムレキシド)が使われているので、こちらについて紹介いたします。
MXとは、ムレオキシドをK₂SO₄で1:250に粉砕希釈したもので、キレート型では黄色,遊離型では紫色を示すので、溶液の色が黄色から紫色に変化した時の値を当量点とするのが一般的です。
最後にキレート滴定によって得られた結果から、ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物のコバルト含有量を求める方法を解説いたします。
以下の式によって、ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物のコバルト含有量を求めることが出来ます。
また、1つ前の「2、モール法」で算出したヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物中の塩素含有量とコバルト含有量を比較すると理論上は、1:3になります。しかし、理論通りにならないのが実験です。なぜ、理論通りにならなかったのかを考察してみると良いレポートが書けると思います。
最後に、キレート滴定については、「水道水と飲料水の硬度測定 ~硬度,キレート滴定,マスキング剤~」,「キレート滴定法による鉱石中の鉛の定量」という記事を書いていますので、こちらも合わせて読んでみてください。
4、~まとめ~
いかがでしたか?
今回は、ヘキサアンミンコバルト(Ⅲ)塩化物を合成し、その後、分析によってコバルト錯体と塩化物イオンの組成比を求める実験を、コバルト(Ⅲ)錯体,モール法,キレート滴定という3つのキーワードから説明しました。どの章も重要なのでしっかりと抑えておきましょう。
また、参考文献は以下の通りになります。
1、日本化学会「新実験化学講座8 無機化合物の合成Ⅲ」丸善出版、1977年、P、1204~1205
最後になりますが、参考文献以外はコピペ厳禁です。バレます。気を付けてください。自分で理解してまとめてください。
また、完全に情報を網羅しきれていないと思いますので、質問等ありましたら、下のコメント欄にコメントお願いします。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。