こんにちは、trans(トランス)です。
今回は、イオン選択性電極を利用してカルシウムイオン濃度を求める実験について解説いたします。
まず、イオン選択性電極の章では、イオン選択性電極の原理・構造,イオン選択性電極を利用したキレート滴定などを解説いたします。
次に、イオン強度と活量の章では、イオン強度と活量の関係,カルシウムイオン測定時にイオン強度を調製する理由などを解説いたします。
実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて、予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。
レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことに興味があれば、読んでみてください。
それでは行きましょう!
1、イオン選択性電極
イオン選択性電極とは、電解質を含む水溶液中の特定のイオンに反応する電極のことです。今回は、このイオン選択性電極のうち、カルシウムイオンに特異的に反応するものを使用しています。
しかし、イオン選択性電極のみではカルシウムイオンを測定することが出来ません。では、どのように測定するのでしょうか?
それはカルシウムイオンに特異的に反応したことで発生する電位差を利用します。
引用:(第6講)イオン電極法
イオン選択性電極を用いてイオン濃度を測定する場合は上図のような電位差測定装置を使用します。
左側にあるイオン選択性電極(指示電極)と右側にある参照電極(今回は銀-塩化銀電極を使用)を電位差計を介して繋ぎ、2つの電極の電位差によってイオン濃度を測定することができます。
イオン選択性電極は、固体膜電極,液膜電極,ガス感応性電極などの種類がありますが、今回の実験では液膜電極を使用しているので、こちらについての原理・構造を紹介いたします。
液膜電極は、下図のように多孔性膜とイオン交換液が感応膜の役割を果たし、その上に内部液と導線を持つ構造をしています。
カルシウムイオンが多孔性膜を通り、イオン交換液と反応することで、参照電極との電位差が生じ、カルシウムイオン濃度を測定することができます。
次に、イオン選択性電極を利用したキレート滴定について解説いたします。
キレート滴定とは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA),1,2-シクロヘキサン四酢酸(CyDTA),ニトリロ三酢酸(NTA)のようなキレート試薬の、アルカリ属以外の金属イオンと高く安定性のあるキレート化合物を作る性質を利用して定量する分析方法です。
キレート化合物(キレート剤+金属)は、高く安定性があるため、キレート化合物中の金属はイオンとして感知されません。つまり、イオン選択性電極を利用しながらキレート滴定を行うと以下のように電位差が小さくなっていくグラフを書くことが出来ます。また、この方法を使ってキレート滴定を行った場合、金属指示薬を使わなくてもよいというメリットもあります。
キレート滴定については、「水道水と飲料水の硬度測定 ~硬度,キレート滴定,マスキング剤~」,「キレート滴定法による鉱石中の鉛の定量」という記事を書いていますので、こちらも合わせて読んでみてください。
2、イオン強度と活量
カツ丼の写真を載せてみました。
なぜでしょうか?
カツ丼→かつどん→かつりょう→活量…。
気にしないでください(笑)。気を取り直して、本文に行きましょう。
まず、イオン強度と活量の関係を説明する前に、イオン強度と活量が、それぞれ何を意味しているかを説明していきます。
「イオン強度と活量」というタイトルですが、便宜上、活量から説明していきます。
活量とは、実際に溶液に影響を与えるイオン濃度のことを言い、「ai = fi ×Ci」(ai:イオン活量, fi:活量係数,Ci:イオンのモル濃度)で表すことができます。
「よく分からない」と思った人、それが正しい反応です。実際に影響を与えるとは、溶液内で分子運動が出来るかどうかを意味しています。つまり、濃度が濃い場合は分子が自由に動き回れないので活量係数が「0(ゼロ)」に近づき、濃度が薄い場合は分子が自由に動けるので活量係数は「1(いち)」に近づきます。ここを抑えておければ、活量への大まかな理解は問題ありません。
次に、イオン強度について説明していきます。
イオン強度とは、溶液に存在するイオン全体の強さのことで、「I=1/2 ΣCi×Zi²」(I:イオン強度,Ci:イオンのモル濃度,Zi:イオンの電荷)で表すことができます。
つまり、0.1 mol/Lの塩化カルシウム(CaCl₂)のイオン強度は以下のように求めることが出来ます。
「CaCl → Ca²⁺ + 2Cl⁻」より、Ca²⁺のイオン濃度は0.1 mol/L,Cl⁻のイオン濃度は0.2 mol/Lとなるので、イオン強度は
I=1/2{0.1×2²+0.2×(-1)²}=0.6
となります。
これらの内容を踏まえると、イオン強度と活量の関係ですが、イオン強度が上がるほど、溶液中に存在するイオンが増えるので、活量は小さくなるということが分かります。
この章の最後に、カルシウムイオン測定時にイオン強度を調製する理由について説明します。
前文で述べたように、イオン強度が上がるほど、活量は小さくなります。つまり、イオン強度によって測定値に誤差が生じてしまう恐れがあります。そのため、測定する溶液のイオン強度を一定に保つ必要があります。
今回は、濃度1.0×10⁻⁶ mol/L~1.0×10⁻² mol/Lの塩化カルシウム溶液で検量線を作成し、その後、未知試料を測定するという手順です。したがって、カルシウムと無関係な塩化ナトリウム(NaCl)を対象物質(カルシウムイオン)よりも高い濃度(0.1 mol/L)で全ての溶液に加えることで、イオン強度が一定になるように調製しています。
3、~まとめ~
いかがでしたか?
今回は、イオン選択性電極を利用してカルシウムイオン濃度を求める実験を、イオン選択性電極,イオン強度と活量という2つのキーワードから説明しました。どの章も重要なのでしっかりと抑えておきましょう。
また、参考文献は以下の通りになります。
1、梅澤喜夫「計測と制御 Vol.25 No.11」1986、P、991~993
2、日色和夫「わかり易い公害分析・計測基礎講座 Vol.8 No.10」1979、P、1,007~1,012
最後になりますが、参考文献以外はコピペ厳禁です。バレます。気を付けてください。自分で理解してまとめてください。
また、完全に情報を網羅しきれていないと思いますので、質問等ありましたら、下のコメント欄にコメントお願いします。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。