こんにちは、trans(トランス)です。
今回は、以前書いた「脱水反応を用いた含水エタノールから無水エタノールの調製 ~無水エタノール,脱水反応,加熱還流,常圧蒸留,屈折率~」で得られた無水エタノールと酢酸を用いてフィッシャーエステル化反応によって酢酸エチルを合成する実験について解説いたします。
まず、エステル化の章では、合成される酢酸エチルの基本情報やエステル合成法などについて、解説いたします。
次に、ガスクロマトグラフィーの章では、ガスクロマトグラフィーの基本的な原理や定性法・定量法などについて、解説いたします。
最後に、溶媒(液ー液)抽出の章では、溶媒(液ー液)抽出の方法やポイントなどついて解説いたします。
実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて、予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。
レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことに興味があれば、読んでみてください。
それでは行きましょう!
目次
1、エステル化
エステル化っぽい写真を探したのですが見つからず、エステルゴムというハンガリーの都市の写真があったので、こちらを貼ってみました(笑)。
ということで気を取り直して、本題に行きましょう。
まずは、今回の実験で合成する酢酸エチルの基本情報を見ていきましょう。
・化学式:C₄H₈O₂
・モル質量:88.1 g/mol
・沸点:77.1 ℃
・融点:-83.6 ℃
・水に対する溶解度:8.3 g/100 mL(20 ℃)
・外観:無色の液体
・におい:果実臭(パイナップル)
・構造式:
次に、無水エタノールと酢酸から酢酸エチルを合成する反応について見ていきましょう。
反応式は以下の通りです。
C₂H₅OH + CH₃COOH → CH₃COOC₂H₅ + H₂O
上記の式から1 molの無水エタノールから1 molの酢酸エチルが合成されることが分かります。
基本的には酢酸を過剰量添加して反応させますので、無水エタノールの量から理論収量を求めることができます。
採取した無水エタノールを50 mLとすると以下の式から理論収量及び収率を算出することができます。
1‐1、フィッシャーエステル化反応
ちなみに、今回の実験では、脱水作用と触媒作用を持つ濃硫酸を利用したフィッシャーエステル化反応を利用して合成を行っております。
反応機構は以下の通りです。
写真が2枚になってしまったので、上記までの反応機構を、まず説明いたします。
まず、2重結合を持つ酸素に対して水素イオンが付くことで、酸素がプラスに電荷を持ちます。
その後、エタノール中の酸素が持つ非共有電子対が炭素に対して攻撃を仕掛けます(右上の反応機構です)。その攻撃を受けて、炭素の腕が5本にならないようにプラス電荷の方に電子を持っていきます。
その後、右下よりも安定な左下の形になります。そして、下側の酸素が持つ非共有電子対が炭素に攻撃を仕掛け、上側のプラスの電荷を持った酸素は水として離脱します。
2枚目の写真の左上の矢印上にある水は、離脱した水を表しています。
その後、水素イオンも離脱して酢酸エチルを合成することができます。
せっかくですので、今回の実験以外の一般的なエステル合成法として、ショッテン・バウマン反応,バイヤー・ビリガー酸化,カルボキシラートイオンによるハロゲン化アルキルへの求核置換反応についても、合成法をそれぞれ説明していきます。
1‐2、ショッテン・バウマン反応
まず、ショッテン・バウマン反応について説明していきます。
ショッテン・バウマン反応とは、アルコールや、アミン類の酸塩化物によるアシル化反応のことであり、塩基存在下に水溶液中で行うエステル化反応で、酸塩化物として主に塩化ベンゾイルが使われます。
この反応は、アルコールをエステル誘導体に、アミンをアミド誘導体に変換して確認するのに用いられます。
また、この反応はエステルの収率を上げるために、酸塩化物と塩基を過剰に使うことが多いです。
この合成法の反応機構を以下に示します。
まず、窒素が持つ非共有電子対が炭素に攻撃を仕掛けることで、炭素が立ち上がり、右上のような形になります。
その後、より安定な右下の形となり、酸素が持つ非共有電子対が炭素に攻撃を仕掛けることで、塩素が離脱します。
その後、離脱した塩化物イオンが上側の水素と結合することで、左下のようなアミド誘導体を合成することができます。
1‐3、バイヤー・ビリガー酸化
次に、バイヤー・ビリガー酸化について説明していきます。
バイヤー・ビリガー酸化とは、バイヤー・ビリガー転位とも呼ばれ、ケトンの過酸による酸化でエステルを生成する反応であります。
ケトンにペルオキシ酢酸などの有機過酸を作用させると、酸化と同時に転位を起こしてカルボン酸エステルを生成します。
酸素原子への転位はメチル基の場合が最も起こりにくく、かさ高いアルキル基やアリール基の方が転位しやすいです。
したがって、メチルケトンからは酢酸エステルを生じます。
この合成法の反応機構を以下に示します。
こちらも2枚の写真となってしまったので、まずは上半分を説明していきます。
まず、ケトンの酸素が持つ非共有電子対が、過カルボン酸の水素に攻撃を仕掛けます(上の半分)。
その後、過カルボン酸のマイナスの電荷を持った酸素が、炭素に攻撃を仕掛け、炭素が立ち上がります。
ケトンと過カルボン酸が合体したような形から左から右にかけて連続的な攻撃が起き、最終的には下半分のようにエステルを合成することができます。
1‐4、カルボキシラートイオンによるハロゲン化アルキルへの求核置換反応
最後に、カルボキシラートイオンによるハロゲン化アルキルへの求核置換反応について説明していきます。
カルボキシラートイオンとは、カルボン酸が電離して生じるアニオンのことであり、カルボキシラートイオンは強い求核試薬として働き、ハロアルカンとSn2反応を起こしてエステルを与えます。
この合成法を、以下に示します。
カルボキシラートのマイナスに電荷した酸素が、ハロアルカンの炭素へ攻撃を仕掛け、ハロゲンが離脱します。
その結果、エステルを合成することができます。
2、ガスクロマトグラフィー
ガスクロマトグラフィー(以下:GC)とは、筒状の容器に充填剤(カラム)を詰めた固定相、そこに流すガスを移動相とし、この移動相中に含まれる各物質の固定相に対する吸着度の違いにより、分離を行うクロマトグラフィーのことをいいます。
ちなみに、移動相が液体の場合は、液体クロマトグラフィーと言います。液体クロマトグラフィーについては、「カラムクロマトグラフィーによる銅イオンと亜鉛イオンの分離 ~カラムクロマトグラフィー,実験操作,データ分析」という記事で詳しく書いていますので、興味のある方は、そちらもご覧ください。
GCは、固定相に固体吸着材を使用する気ー固クロマトグラフィーと、固定相に不揮発性液体を使用する気ー液クロマトグラフィーに分けられますが、今回は気ー固クロマトグラフィーを使用しているので、こちらについてのみ解説していきます。
移動相に使用されるガスはキャリーガスと呼ばれ、気化室(サンプル注入部分)によって気化されたサンプルを運ぶのみ役割を果たします。そのため、安定性の高いヘリウムや窒素などが使用されます。
このキャリーガスによって、気化室で気化されたサンプルがカラムに運ばれ、吸着度の違いによってサンプル中に含まれる物質の移動速度が変わります。
移動速度が違うのでカラムを通過する時間(保持時間)が異なります。そのため、カラム通過後に設置されている検出器でピークの違いによって分離することができます。
ちなみに保持時間は物質により一定ですので、それにより定性分析を行うことができます。
また、ピーク面積比によって純度(定量分析)を求めることも可能です。
3、溶媒(液ー液)抽出
ここまでの章で、酢酸エチルの合成方法及び分析方法を説明してきました。
この章では、合成した酢酸エチルの純度を高める方法を解説いたします。
まず、合成された酢酸エチルは、常圧蒸留によって純度を高めることができます。
その後、さらに純度を高めるには、分液漏斗を用いた溶媒(液ー液)抽出が有効です。
溶媒(液ー液)抽出とは、水と油(今回の実験では酢酸エチル)のように互いに混ざらない2つの液体間の差を利用した精製方法のことです。
まず、常圧蒸留で得た粗酢酸エチルを分液漏斗に移し、炭酸ナトリウム水溶液を加えて良く撹拌します。
炭酸ナトリウムを加えるのは、蒸留物に共存している酢酸や酸触媒をナトリウム塩として有機層から水層に分離し除去するためです。この操作によって、以降の酢酸エチルの精製を容易に行うことができます。
ちなみに反応式は以下の通りです。
2CH₃COOH + Na₂CO₃ → 2CH₃COONa + H₂O + CO₂↑
H₂SO₄ + Na₂CO₃ → Na₂SO₄ + H₂O + CO₂↑
勘の良い方は気付いたかもしれませんが、酢酸ナトリウムCH₃COONa,硫酸ナトリウムNa₂SO₄,水は、水層側に移すことができますが、二酸化炭素については気体として系外に出ようとするので定期的に分液漏斗のコックを開けて、ガス抜きしてあげることが重要です。
その後、分析漏斗の下側が水層,上側が酢酸エチル層となるので、コックを開けて下側の水層を流し出します。
その後、さらに純度を高めるために、飽和食塩水を加えて良く撹拌し、下側を捨てるという操作を複数回繰り返します。これを洗浄と言います。
水ではなく飽和食塩水を使用する理由は以下の3つです。
1つ目は、水層の比重を大きくして、有機層と水層を分離しやすくするためです。このことにより、分離速度が上がり、効率よく実験を進めることができます。
2つ目は、通常の水を用いると、酢酸エチルはケトン基を持つため極性があり、d20/4の比重が、「酢酸(1.04926)>水(0.9982)>酢酸エチル(0.9006)>エタノール(0.7893)」という関係性であることからも分かるように、水との比重が近いため、多少溶解してしまう恐れがあります。それを防ぐために、電解質を加えて飽和させることにより、溶解度が減少して他の物質(本実験では酢酸エチル)が析出する性質、すなわち塩析効果を利用しています。これにより、酢酸エチルは有機層に移動しやすくなります。
3つ目は、飽和食塩水は、イオンを多く含むため水分子を取り込みやすい状態であるため、有機層に含まれる水分子を水層側に引き込みやすくなる性質を利用するためであります。
最後に、飽和食塩水によって洗浄した酢酸エチルに無水硫酸マグネシウムを加え、数分間静置し、ろ過により固形分を取り除き、常圧蒸留することで精製酢酸エチルを得ることができます
これは、溶媒(液―液)抽出をする際に水層を完全に流去できなかったり、有機層に水が含まれることがあり、このような水を除去するために無水硫酸マグネシウムを加えます。
無水硫酸マグネシウムは、吸水性があり硫酸マグネシウム七水和物のほうが安定であるので、水を含む場合は以下のような反応が起こります。
MgSO₄ + 7H₂O → MgSO₄・7H₂O
この章の最後に、抽出溶媒として考慮すべき条件を解説いたします。
抽出溶媒は、対になる相が水であることから、水と相分離する必要があります。
さらに、抽出したい化合物をよく溶かすこと、低沸点で抽出後の留去が容易にできること、毒性がないこと、安価であること、反応性が低く安定であることなどが、一般的に考慮すべき条件です。
また、多くの場合、有機合成反応で用いた有機溶媒との混合溶液系となることから、反応溶媒の性質も考慮する必要があります。
その他、抽出溶媒の選択においては、一般的には、極性の高い化合物は極性溶媒を用いて、極性の低い化合物は非極性化合物を用いて抽出すると良いです。
低沸点化合物の抽出では、抽出液からの溶媒の留去がなるべく容易にできるように目的とする化合物と、溶媒の沸点の差が大きくなるような溶媒を選ぶとよいです。
以上のようなことが、抽出溶媒で考慮すべき条件であります。
具体的な溶媒例としては、炭化水素系であれば、ペンタン(0.63d20/4,以下d20/4は省略),ヘキサン(0.66),シクロヘキサン(0.78)などがあり、これらは比重が1よりも小さいため、水よりも上層になります。
含酸素化合物系であれば、ジエチルエーテル(0.71),酢酸エチル(0.90),n-ブタノール(0.81)などがあり、これらは比重が1よりも小さいため、水よりも上層になります。
ハロゲン化物系であれば、クロロホルム(1.49),ジクロロメタン(1.33),1,2-ジクロロエタン(1.26)などがあり、これらは比重が1よりも大きいため、水よりも下層になります。
4、~まとめ~
いかがでしたか?
今回は、無水エタノールと酢酸を用いてフィッシャーエステル化反応によって酢酸エチルを合成する実験について、エステル化,ガスクロマトグラフィー,溶媒(液ー液)抽出という3つのキーワードから説明しました。どの章も重要なのでしっかりと抑えておきましょう。
また、参考文献は以下の通りになります。
1、飯田隆 他「第3版 イラストで見る化学実験の基礎知識」丸善出版,2009年,p 193~195
最後になりますが、参考文献以外はコピペ厳禁です。バレます。気を付けてください。自分で理解してまとめてください。
また、完全に情報を網羅しきれていないと思いますので、質問等ありましたら、下のコメント欄にコメントお願いします。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。