こんにちは、trans(トランス)です。
今回は、鉱石から鉛を分離し、キレート滴定法によって定量する実験について解説いたします。
鉱石から特定の物質を単離して、定量する実験については過去に、
という記事を書いているので、合わせて読んでみてください。
まず、分解・溶解の章では、鉱石を分解し鉛を回収する方法や鉛を溶解し溶液にするなどを解説いたします。
次に、キレート滴定の章では、キレート滴定の原理や指示薬、得られた結果から鉱石中の鉛の質量%を算出する方法などを解説いたします。
実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて、予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。
レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことに興味があれば、読んでみてください。
それでは行きましょう!
1、分解・溶解
今回の実験で使用する鉱石は、固体です。しかし、そこに含まれる鉛をキレート滴定によって分析する場合、溶液の状態にする必要があります。
分析の前処理として固体を溶液の状態にすることを試料分解といい、特に酸を用いて分解する操作を酸分解と言います。今回の実験では、酸分解によって得られた鉛溶液を硫酸鉛に置換し、(酢酸+酢酸アンモニウム)溶液で溶解した溶液をキレート滴定によって定量します。
酸分解については、「酸化還元滴定による鉱石中の鉄の定量」で詳しくまとめているので、合わせて読んでみてください。
ここでは、酸分解後の操作について解説いたします。
鉱石には色々な金属が含まれているので、酸分解によって得られた溶液には、様々な金属イオンが含まれています。それを、いきなりキレート滴定してしまうと鉛だけでなく、他の金属イオンも含めた結果となってしまいます。
硫酸を加えることによって、鉛を特異的に沈殿として分離することが出来ます。硫酸と鉛イオンの反応によって生じる硫酸鉛の溶解度が0.0044 g / 100 gと低いので、沈殿します。ちなみに硫酸鉄(Ⅱ)の溶解度は25.6 g / 100 gと高いので、溶液として存在しています。このように、硫酸鉛と他の金属の硫酸塩の溶解度の差によって、鉛を単離することが出来ます。
上記反応によって鉛を単離することが出来ましたが、溶液の状態でないとキレート滴定することが出来ません。
そこで、(酢酸+酢酸アンモニウム)溶液を加えることで硫酸鉛を酢酸鉛にして溶解する操作を行います。具体的には以下の反応が起きています。
PbSO₄ + 2CH₃COO⁻ → Pb(CH₃COO)₂ + SO₄²⁻
過剰に(酢酸+酢酸アンモニウム)溶液を加えた場合、以下のような錯イオンを形成します。
PbSO₄ + 4CH₃COO⁻ → [Pb(CH₃COO)₄]²⁻ + SO₄²⁻
錯イオンは、イオンなので当然溶解していますし、酢酸鉛の溶解度は44 g / 100 gと高いので、どちらの状態であっても硫酸鉛を溶解することができます。
「ん? 硫酸鉛と酢酸イオンの反応であれば、わざわざ(酢酸+酢酸アンモニウム)溶液を使わずに、酢酸か酢酸アンモニウムのどちらかで良くない?」と思った方もいると思います。鋭いですね。その通りです。
では何故、(酢酸+酢酸アンモニウム)溶液を使うのでしょうか?
それは後述するキレート滴定で使用するエチレンジアミン四酢酸(EDTA)は、pHが下がると形成されるキレート化合物(EDTA+二価の金属イオン)が不安定になる性質を持つためです。そのため、(酢酸+酢酸アンモニウム)溶液を使用することで緩衝液として機能し、適切にキレート滴定を行うことが出来るようになります。
2、キレート滴定
「なんで最初の画像がカニ?」って思いましたよね?
しかし、キレート滴定の原理とは、このカニのハサミのようなものなのです。説明に入る前に、このイメージを入れて読んでみてください。
キレート滴定とは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA),1,2-シクロヘキサン四酢酸(CyDTA),ニトリロ三酢酸(NTA)のようなキレート試薬の、アルカリ属以外の金属イオンと高く安定性のあるキレート化合物を作る性質を利用して定量する分析方法です。
キレート滴定の説明をしましたが、意味分からなかったと思います。ここで出てくるのが先ほどのカニのハサミです。上記のキレート試薬のうち、EDTAが最も有名なので、これ以降の原理の説明はEDTAで行ないます(ちなみに今回の実験でもEDTAが使用されています)。
EDTAとアルカリ金属以外の金属イオンは以下のような反応をします。
上の図から分かるように、EDTAの4本のCH₂COO⁻ の腕と2個のNの非共有電子対が、カニのハサミが物を挟むように、金属イオンを囲んでいることが分かると思います。
つまり、EDTAと金属イオンが1対1で反応します。この性質を用いて定量を行うことが出来ます。EDTAを滴定していき、1 molで反応が終われば、金属イオンの存在量も1 molといったような形で定量することができます。
ここまでの説明でキレート滴定の原理は分かったと思います。しかし、ただEDTAと金属イオンを反応させても、どの段階で完全に全ての金属をキレートしたか判断することが出来ません。そこで、登場するのが金属指示薬です。
金属指示薬とは、キレート滴定において、どの量が当量点であるかを示す指示薬です。中和滴定におけるpH 指示薬のようなイメージで大丈夫です。
金属指示薬は、pH 指示薬同様に色が変化することによって当量点を知らせてくれます。この変色の原理について少し説明いたします。
金属指示薬は、EDTAよりも弱いキレート作用があります。また、キレート時と遊離後で色が変わります。つまり、滴定前は金属イオンにキレートしていてキレート型の色を持ちますが、EDTAを滴定し、当量点になると金属イオンから遊離していきます。遊離することで、遊離型の色になり変色が確認できるので、そこが当量点ということになります。
今回は指示薬としてXO(キシノールオレンジ)が使われているので、こちらについて紹介いたします。
キレート型では赤紫色,遊離型ではpH6以下で黄色,pH6以上で赤色を示すので、pHを5程度にして、溶液の色が赤紫色から黄色に変化した時の値を当量点とするのが一般的です。
最後にキレート滴定によって得られた結果から、鉱石中の鉛の質量%を求める方法を解説いたします。
以下の式によって、鉱石中の鉛の質量%を求めることが出来ます。
キレート滴定について、「水道水と飲料水の硬度測定 ~硬度,キレート剤,マスキング剤~」という記事でも紹介していますので、興味のある方は、そちらも合わせて読んでみてください。
3、~まとめ~
いかがでしたか?
今回は、キレート滴定法による鉱石中の鉛の定量実験を、分解・溶解,キレート滴定という2つのキーワードから説明しました。どの章も重要なのでしっかりと抑えておきましょう。
また、参考文献は以下の通りになります。
1、上野景平「キレート滴定法」1956、南江堂
最後になりますが、参考文献以外はコピペ厳禁です。バレます。気を付けてください。自分で理解してまとめてください。
また、完全に情報を網羅しきれていないと思いますので、質問等ありましたら、下のコメント欄にコメントお願いします。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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