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水道水と飲料水の硬度測定 ~硬度,キレート滴定,マスキング剤~

投稿日:

こんにちは、trans(トランス)です。

今回は、キレート滴定法を用いて、水道水と飲料水の硬度を算出する実験について紹介します。

 

まず、硬度の章では、硬度とは何か,飲料水の硬水と軟水の違いなどを紹介します。

次に、キレート滴定の章では、キレート滴定の基本的な原理,金属指示薬とpHの関係,硬度を求める方法などについて説明します。

最後に、マスキング剤の章では、マスキング剤の役割や意味について紹介します。

 

実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。

レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことが知りたければ読んでいただいて構いません。

 

それでは行きましょう!

 

1、硬度

硬度

 

硬度とは、水に含まれる Ca2+と Mg2+ の2つのイオンの量の値のことです。

以前の日本では、ドイツ式という2つのイオンの量をCaOに変換して、水100 mL中にCaOが1 mg含まれている場合を硬度1として計算していました。

しかし、近年では、アメリカ式という2つのイオン量をCaCO₃ に変換して、水1 L中にCaCO₃ が1 mg含まれている場合を硬度1として計算するようになりました。なので、これ以降の硬度の値は全てアメリカ式で記載します。

今回の実験での硬度の算出方法は、次のキレート滴定の章に記載するので、そちらを参照してください。

 

次に、飲料水の硬水と軟水の違いについて説明します。

日本では一般的に、硬度100以上の水を硬水硬度100以下の水を軟水としています。また、WHOでは、硬度60以上の水を硬水、硬度60以下の水を軟水としています。今回の実験は日本で行われていると思うので日本の基準を使えば大丈夫だと思います。

ちなみに日本の水道水は基本的に軟水です。また、私が調べたところ、東京23区の硬度は50~75でした。この値を参考に実験値と比較して考察してみると面白いと思います。

 

ここまで、硬水と軟水の物質的な性質を説明してきましたが、最後に少しだけ、味の違いや料理における使い分けについて書いておきます。

まず、味についてです。硬水はミネラルが豊富で重い口当たりで少しクセがあります。一方、軟水は、軽くコクが無い代わりに口当たりが柔らかく、さっぱりとした味になっています。

次に、料理における使い分けですが、硬水は肉などの煮込み料理やパスタのような硬いものに使用し、軟水は和食などのさっぱりとした料理に適しているようです。

 

 

2、キレート滴定

キレート滴定

 

「なんでカニ?」って思いましたよね? しかし、キレート滴定の原理とは、このカニのハサミのようなものなのです。説明に入る前に、このイメージを入れて読んでみてください。

 

キレート滴定とは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA),1,2-シクロヘキサン四酢酸(CyDTA),ニトリロ三酢酸(NTA)のようなキレート試薬の、アルカリ属以外の金属イオンと高く安定性のあるキレート化合物を作る性質を利用して定量する分析方法です。

キレート滴定の説明をしましたが、意味分からなかったと思います。ここで出てくるのが先ほどのカニのハサミです。上記のキレート試薬のうち、EDTAが最も有名なので、これ以降の原理の説明はEDTAで行ないます。EDTAとアルカリ金属以外の金属イオンは以下のような反応をします。

 

EDTAと金属イオンのキレート

 

 

上の図から分かるように、EDTAの4本のCH₂COO⁻ の腕と2個のNの非共有電子対が、カニのハサミが物を挟むように、金属イオンを囲んでいることが分かると思います。

つまり、EDTAと金属イオンが1対1で反応します。この性質を用いて定量するのです。EDTAを滴定していき、1 molでキレートできたら、金属イオンの存在量も1 molといったような形で定量できます。

 

キレート滴定とは、あまり関係のない補足的なものですが、EDTAは吸湿性があるのでデシケーター内に保存して、使用時は素早く調製する様にしてください。

 

 

 

ここまでの説明でキレート滴定の原理は分かったと思います。しかし、ただEDTAと金属イオンを反応させても、どの段階で完全に全ての金属をキレートしたが分かりません。そこで、登場するのが金属指示薬です。

金属指示薬とは、キレート滴定において、どの量が当量点であるかを示す指示薬です。中和滴定におけるpH 指示薬のようなイメージで大丈夫です。

 

金属指示薬は、pH 指示薬同様に色が変色することによって当量点を知らせてくれます。この変色の原理について少し説明しておきます。

金属指示薬は、EDTAよりも弱いキレート作用があります。また、キレート時と遊離後で色が変わります。つまり、滴定前は金属イオンにキレートしていてキレート型の色を持ちますが、EDTAを滴定すると金属イオンから遊離していきます。完全に遊離しきったところで、遊離型の色になり変色が確認できるので、そこが当量点ということになります。

 

今回は、硬度つまり水のカルシウムイオン濃度とマグネシウムイオン濃度を調べたいので、それに適した金属指示薬を用います。1-(2-ヒドロキシ-4-スルホ-1-ナフチルアゾ)-2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸(通称:NN)とエリオムブラック(通称:BT)の2種類が一般的に使われるので、この2つを紹介します。

 

 

まず、NNについてです。NNは、キレート型では赤紫色ですが、遊離型では青色になります。また、終点判別可能なpHは12~13なので水酸化カリウムなどを加えて、pH 12~13に調整しておきましょう。

また、pH 12~13にすることによってマグネシウムイオンは水酸化物イオンと化合し、水酸化マグネシウムとなり沈殿するので、カルシウムイオンのみの定量が可能になります。

 

「え、カルシウムイオンも沈殿するでしょ?」と思った人、冷静に考えてみてください。

 

確かに、カルシウムイオンも水酸化物イオンと化合し、水酸化カルシウムになります。しかし、水酸化カルシウムは、水酸化マグネシウムと異なり強塩基です。つまり、完全に電離します。そのため、沈殿せずにカルシウムイオンのままというわけです。

 

 

次に、BTについてです。BTは、キレート型では赤紫色ですが、遊離型では青色になります。また、終点判別可能なpHは7~11なので塩化アンモニウムとアンモニア水のような塩基性の緩衝液を加えて、pH 7~11に調整しておきましょう。

また、BTはマグネシウムイオンとカルシウムイオンの総量が定量されてしまいますが、この値から先ほどのNNにより定量したカルシウムイオンの値を引くことで、マグネシウムイオンの値も算出することができます

 

 

 

この章の最後に、測定した値から硬度を算出する方法を紹介します。

硬度であれば、BTを金属指示薬として用いたときの滴定量で算出することができます。算出の式は以下のようになります。

硬度の算出の式

カルシウムイオン濃度のみを求めたい場合は、NNのときの滴下量を用いてください。

また、マグネシウムイオン濃度のみを求めたい場合は、BTのときの滴下量で算出した値からNNのときの滴下量で算出した値を引くことで算出することができます。さらに、マグネシウムイオン濃度に関してMgCO₃で算出する場合は、この値に0.84をかけることで算出することができます。MgCO₃の物質量が84であり、上記の式に84/100 をかけるとCaCO₃をMgCO₃に換算することができるためです。

 

 

 

3、マスキング剤

マスキング剤

 

コロナウイルスが流行っている今ですが、マスクしてますか?

「いきなりどうした?」と思うと思いますが、マスキング剤は、このマスクから由来しています。

マスクって口を隠しますよね?

マスキング剤も、あるものを隠します。では、本編です。

 

マスキング剤とは、キレート滴定において特定の金属イオン以外の反応を阻害するために加える試薬のことです。

もう少し分かりやすく説明すると、今回の実験ではカルシウムとマグネシウムのイオン濃度が知りたいので、それ以外の金属イオンはEDTAにキレートして欲しくない状況にあります。しかし、水には、Al,Fe,Zn,Ni,Co,Cu といったような金属のイオンが存在しています。しかし、マスキング剤を加えることによって、これらの金属イオンの働きを阻害して、キレート時に隠すことができます。

 

 

今回の実験では、一般的に、トリエタノールアミン(TEA)シアン化カリウム(KCN)の2つがマスキング剤として使用されます。

 

トリエタノールアミン(TEA)は、Al,Fe などの金属イオンをマスク(隠す)します。

 

シアン化カリウム(KCN)は、Zn,Ni,Co,Cu などの金属イオンをマスクします。

 

 

4、~まとめ~

いかがでしたか?

今回は、キレート滴定法を用いた水道水と飲料水の硬度を算出する実験を硬度,キレート滴定,マスキング剤という3つのキーワードから説明しました。特に、キレート滴定の章は重要なのでしっかりと抑えておきましょう。

 

今回は、大学の図書館が、まだ空いておらず、参考文献は特にありませんが、大学に行けるようになったら、参考文献を何かしら記載しておきます。なので、いったん参考文献の記載は省略させていただきます。ただし、いつも同様、コピペは厳禁です。ばれるので、自分で理解してまとめましょう。

 

今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

 

-理系の教養

執筆者:


  1. あいうえお より:

    上水道の実験を行ったときに、KCNを用いずに実験を進めたのですが、加えなかった理由はなんでしょうか

    • trans より:

      返信が大変遅くなり、申し訳ありません。
      諸事情により、半年以上ブログの執筆を行っておりませんでした。
      もう遅いと思いますが、他の人のために回答させていただきます。

      安全面の配慮だと思われます。シアン化カリウムは、「別名:青酸カリウム」とも呼ばれ、猛毒です。
      学生に、そのような物質を扱わせるのは、危ないと判断したのではないでしょうか?
      少しでも参考になれば幸いです。

  2. […] キレート滴定については、「水道水と飲料水の硬度測定 ~硬度,キレート滴定,マスキング剤~」,「キレート滴定法による鉱石中の鉛の定量」という記事を書いていますので、こちらも合わせて読んでみてください。 […]

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