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GM計数管によるβ線の測定~β線,ウラン,GM管,データ分析~

投稿日:11月 30, 2024 更新日:

GM管におけるβ線の測定~β線,ウラン,GM管~

 

こんにちは、trans(トランス)です。

今回は、GM管を使って放射線の1つであるβ線を測定する実験について解説いたします。

 

まず、β線の章では、放射線やβ線などの基本的な用語の解説いたします。

次に、ウランの章では、今回の実験で試料として使用するウランについて解説いたします。

次に、GM計数管の章では、GM管の構造や用語について解説いたします。

最後に、データ分析の章では、実際のデータを使用した分析について解説いたします。

 

実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて、予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。

レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことに興味があれば、読んでみてください。

 

それでは行きましょう!

 

1、β線

β線

 

まずは、放射線に関する基本的な用語の解説からしていきます。

まず、放射線とは、α線,β線,中性子線,陽子線などの高い運動エネルギーを持って流れる物質粒子と、γ線やX線のような高エネルギーの電磁波の総称のことです。エネルギーの高い波動をイメージしてくれると良いと思います。

この放射線を出す性質を放射能といい、放射能を持つ核種(原子番号,質量数,エネルギー状態によって決定される原子核の種類)を放射線核種核種と言います。

 

放射線は、ある不安定な核種が安定な核種に変化するときに放出されます。この放射線放出を伴う核種の変化を壊変と言います。

この壊変によって、不安定な核種の数が元の半分になるまでの時間を半減期といい、半減期の値を使うことで以下の式から壊変率を求めることができます。

 

壊変率=(ln 2 / 半減期)× 原子数

 

lnはlogeのことで、壊変率の単位はBq(ベクレル)で表すことができます。

ベクレルということは聞きなじみがあると思います。

 

 

次に放射線の種類について解説するのですが、今回はβ線のみを扱うので、ここではβ線のみの説明をいたします。

β線とは、原子核から放出される陰電子および陽電子のことです。また、核がβ線を放出して、質量数を変えずに原子番号が1異なる核種(同重体)に変化する現象をβ壊変といいます。

β壊変には、β壊変、β壊変、軌道電子捕縛壊変がありますが、今回の実験では、β線について取り扱うので、β壊変の説明のみをします。

原子核がβ壊変を起こすと、原子核からエネルギーが大きい高速の陰電子eが放出され、同時にニュートリノνが放出される。親核種(AE)、娘核種(AE´)とすると、壊変反応は以下のように示すことができます。

 

AZE →  AZ+1E´+e + ν

 

つまり、陰電子とニュートリノを放出して、原子番号が1だけ大きくなる反応ということです。

β壊変のエネルギーは、β線のエネルギーとニュートリノの運動エネルギーに分配され、その割合は壊変によって異なります。また、β線は0から一定の最大エネルギー値を持った連続スペクトルを与えるという性質を持ちます。

しかし、今回の実験でいうβ線のエネルギーは、基本的に最大エネルギーのことであります。また、これ以降に出てくるβ線、β壊変は、特に断りが無ければβのことですので、ご了承ください。

 

 

2、ウラン

ウラン

 

今回の実験では、U₃O₈から放出されるβ線を測定しています。

ですので、この章ではウランについて詳しく解説していきます。

 

まず、ウランの物理定数について記します。

原子量:238.0289

同位体存在度:234U(0.0054%)、235U(0.720%)、238U(99.275%)

238Uの半減期:4.468×10

壊変系列:ウラン系列

 

238Uは、下図のような経路で壊変します。またβ壊変時に放出されるβ線の最大エネルギーも同図に示しています。

 

ウラン系列

 

 

また、本実験の線源として用いたUの分子量は842.08であるので、1 mgに含まれる238Uは以下の式によって求めることができます。

酸化ウラン中のウランの原子数計算式

 

 

3、GM計数管

GM管

 

GM計数管の構造や原理を説明するために、まず電離箱の説明をいたします。

電離箱とは、二枚の電極が入った箱に適当な気体を満たし、荷電粒子が気体を電離して生じた電子と陽イオンを電極に集め、その時の電圧を測り、その電圧を飽和が起こる状態以上にした時の飽和電流と単位時間に入射した放射線の個数が比例することを利用して、α線の個数や照射線量を測る装置であります。

電離箱よりも高い電圧をかけることにより、増幅機能を持たせ、入射した放射線を一つ一つ数えられるようにしたものを計数管といいます。

この計数管にかける電圧(印加電圧)と得られるパルス電流(パルス波高)の関係を下に示します。

 

計数管の印加電圧とパルス電流の関係

引用:放射線豆知識

 

上図のように印加電圧を上げていくと、ある電圧以上で最初のイオン対と増幅後のイオン対の数の間に比例関係がなくなり、電圧一定において最初のイオン対の数と関係なく、一定数のイオン対が生じ、一定の高さのパルスが得られます。この領域(GM領域)で働く計数管をGM計数管と言います。

ちなみにGM計数管の構造は以下のようになっています。

 

GM計数管の構造

引用:主任者試験を極める①(H29 第1種放射線取扱主任者試験 物理学 問28)

 

 

上図のように金属芯のアノードと金属筒のカソードからなり、高い印加電力によりアノード付近の電場の勾配が大きく、大規模な電子なだれが発生し、大量のイオン対が生じます。

そのとき加速された電子(β線)が計数管に充満されている気体(不活性ガスやペニング混合ガス)を電離させます。

 

その時のイオン対の数を数えることによりβ線を測定することができます。このときにカウントされるβ線(電子)の数を計数といい、1分間に計測される計数を計数率といいます。また、計数測定において生じる誤差を計数誤差といいます。

ちなみに、宇宙線や大気中に存在する目的とする物質以外から計測される計数を自然計数といい、計数率から自然計数を引くことで、正確な計数である正味計数率を算出することができます。

この正味計数率を壊変率で割ることで、機器の測定効率である計数効率を求めることができます。

 

また、上記に示した計数管にかける電圧(印加電圧)と得られるパルス電流(パルスの波高)の関係図ようにGM領域を越えると再びパルスの値が上昇してしまうので、計数率一定の部分(プラトー)の中央よりやや低めの位置を作動電圧として測定を行うようにすると良いです。

 

 

4、データ分析

データ分析

 

まず、具体的なデータ分析に入る前に、基礎知識として誤差のあるデータの分析で必要な処理である最小二乗法と多項式近似曲線について説明いたします。

 

最小二乗法とは、測定点の直線のずれの二乗の合計和が最小となるような傾きと、切片を定めることであります。

今回は電圧と計数率の関係図を作成しますが、その際に最小二乗法を用いることで、バラつきの最も小さい直線を作成することができます。

直線の式を、「y=ax+b」とすると以下の式で傾きと切片が求まります。

a=Σ(xi-X)(yi-Y)/Σ(xi-X)2

b=Y-aX

 

xi:ある与えられたxの値、X:すべてのxiの値の平均値

yi:ある与えられたyの値、Y:すべてのyiの値の平均値

 

本実験では、Excelを用いて検量線を作成しているので、Excelでの最小二乗法が良くまとまった別の方が書かれた記事のリンクを以下に載せておきます。

Excelで最小二乗法を行う

 

次に多項式近似曲線の説明をいたします。多項式近似曲線とは、y=a+bx+cx2+・・・・のように多項式を回帰曲線にしたものである。この次数を任意で決めて、最も適した曲線を選択します。

 

ここから実際の実験データを使用したデータ分析について解説いたします。

下の図は、Al製吸収板の厚さを変えた時の正味計数率の変化を確認した実験の図になります。

Al製吸収板と計数率の関係

 

上図の結果に対して最小二乗法(指数近似)を用いて直線を引くと、y=58.449e⁻6.923xという関係式を得ることができます。

Al製吸収板の厚さが0 g/cm²のときの正味計数率は、上式にx=0を代入すればよいので、58.449 cpsとなります。

つまり、正味計数率が半分になる半減厚みd1/2はyに58.449の半分である29.225を代入すればよいので、0.10 g/cm²と求めることができます。

 

また、吸収係数μは、ln2÷d1/2で求めることができるので、6.93となります。

ちなみにAl製吸収板によってβ線が完全に阻止される点までの厚さである飛程Rは、下図のようにS字に曲がりだした部分を読み取るしかないので、下図の方法に従い、上図を読み取ると0.834 g/cm2と求めることができます。

 

飛程の求め方

引用:2019年度実務の試験問題 フェザー法

 

さらにR=0.543Emaxー0.16という式が成り立つので、β線最大エネルギーEmaxは1.83 MeVであると求めることができます。

この値と「2、ウラン」の章で示した図を比較すると、本実験のβ線は214Biから放出されたと予想することができます。

 

 

5、~まとめ~

いかがでしたか?

今回は、GM計数管を使って放射線の1つであるβ線を測定する実験について、β線,ウラン,GM計数管,データ分析という4つのキーワードから説明しました。どの章も重要なのでしっかりと抑えておきましょう。

 

また、参考文献は以下の通りになります。

1、浜田達二,大塚巌「ラジオアイソトープ講義と実習(第3版),日本アイソトープ協会」1975年,丸善出版,p28, 278, 374

 

また、放射化学のもう少し発展的な内容として、「寿命の短い放射性核種の分離と測定 ~ウラン,データ分析~」という記事を書いているので、興味のある方は、こちらも合わせてご覧ください。

 

寿命の短い放射性核種の分離と測定 ~ウラン,データ分析~

 

最後になりますが、参考文献以外はコピペ厳禁です。バレます。気を付けてください。自分で理解してまとめてください。

また、完全に情報を網羅しきれていないと思いますので、質問等ありましたら、下のコメント欄にコメントお願いします。

今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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