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ベックマン転位によるシクロヘキサノンオキシムからカプロラクタムの合成

投稿日:3月 9, 2025 更新日:

ベックマン転位によるシクロヘキサノンオキシムからカプロラクタムの合成

 

こんにちは、trans(トランス)です。

今回は、「シクロヘキサノールからシクロヘキサノンの合成及びイミン誘導体の合成」で得られたシクロヘキサノンオキシムから、ベックマン転位を利用して、カプロラクタムを合成する実験について解説いたします。

 

シクロヘキサノールからシクロヘキサノンの合成及びイミン誘導体の合成

 

まず、カプロラクタムの章では、カプロラクタムの基本情報やナイロン6を合成する方法などを解説をいたします。

次に、ベックマン転位の章では、原理や反応機構などについて解説いたします。

最後に、実験操作の章では、実験操作の方法や収率の算出方法などを解説いたします。

 

実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて、予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。

レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことに興味があれば、読んでみてください。

 

それでは行きましょう!

1、カプロラクタム

カプロラクタム

 

まずは、本実験で合成するカプロラクタムの基本情報を見ていきましょう。

・化学式:C₆H₁₁NO

・モル質量:113.2 g/mol

・沸点:139~140 ℃ / 12 mmHg

・融点:68 ℃

・水に対する溶解度:82 g/100 mL(20 ℃)

・外観:白色固体

・構造式:

カプロラクタム 構造式

 

 

 

 

 

 

引用:ε-カプロラクタム - Wikipedia

 

カプロラクタムの化学的性質で特に重要なのは、加熱するとポリアミドを与えることです。

つまり、加熱することにより開環重合が起き、重合体としてナイロン6を合成することができます。具体的には、窒素条件下で553 Kで4~5時間程度加熱すると開環重合が始まり、ナイロン6を得ることができます。

カプロラクタムの開環重合反応を下に示します。

 

ナイロン6の合成式

 

具体的には、酸素と二重結合しているところの炭素と窒素の結合がほどけ、別の開環したカプロラクタムと結合し、ポリマーを合成します。

ポリマーについては、過去に「ナイロンー6,6の合成 ~縮合重合反応,ナイロンー6,6」という記事で詳しく書いていますので、興味のある方は、そちらもご覧ください。

 

ナイロンー6,6

 

2、ベックマン転位

ベックマン転位によるシクロヘキサノンオキシムからカプロラクタムの合成

 

まず、今回の実験の化学反応式を示します。

 

ベックマン転位 反応式

 

今回は、ベックマン転位という反応を利用しています。

ベックマン転位とは、ケトオキシムをプロトン酸、ルイス酸あるいは、アシル化剤で処理することにより、酸アミドが生成する転位反応のことです。一般的に触媒としては、五塩化リン、硫酸、塩酸ベンゼンスルホニルなどが用いられます。

転位する基はオキシムの水酸基に対してアンチに位置する原子団であります。これが不斉の場合、その立体配置は保持されることから、分子内転位であるということができます。もし、移動基がAr2CH-などのようにカルボカチオンを安定化する基および水素の場合は、中間体から移動基が脱離してニトリルが生成することがあり、ベックマン開裂(Becmann cleavage)と呼ばれています。

本実験のシクロヘキサノンオキシムのベックマン転位の反応機構を下に示します。

 

ベックマン転位 反応機構

 

上図の反応機構について、簡単に説明いたします。

シクロヘキサノンオキシムが持つ酸素の非共有電子対が、水素イオンに攻撃を仕掛けます(左上)。

水素イオンが必要なので本実験は濃硫酸を触媒としています。

 

次に、炭素が窒素に攻撃することで、水分子が脱離します(中上)。

次に、水分子の酸素が持つ非共有電子対が、窒素と二重結合している炭素に攻撃を仕掛けます(右上)。

次に、水素イオンが脱離します(左下)。

次に、互変異性が起き、カプロラクタムを得ることができます(中下→右下)。

 

 

3、実験操作

実験操作

 

本実験では、ベックマン転位させた後に、中和を冷却下でゆっくりと行う必要があります。

まずは、この操作の必要性について説明いたします。

 

まず、中和する理由ですが、これはベックマン転位によって生じた物質はカプロラクタムではなく、カプロラクタムの硫酸塩として得られるので、これを遊離させる必要があるためです。

また、冷却下でゆっくりと行う理由ですが、中和反応は発熱反応であるため冷却しなければ系が高温となり、カプロラクタムが加水分解を起こして6-アミノカプロン酸を生成してしまうためです。もし、加水分解が起きたら、収率が下がってしまいます。ゆっくりと行うのは、一回の発熱量を下げ冷却しやすくするためです。つまり、これらの操作は系の温度を下げ、加水分解が起こるのを防ぎ収率を上げるために行います。

 

 

次に、収率の求め方について説明いたします。

まず、理論収量ですが、秤量したシクロヘキサノンオキシムの質量が、そのまま理論収量になります。

なぜでしょうか?

それは、シクロヘキサノンオキシムも、カプロラクタムも同じモル質量だからです。

また、収率ですが、収量を理論収量で割り、100を乗じることで求めることができます。

 

 

4、~まとめ~

いかがでしたか?

今回は、ベックマン転位を利用して、シクロヘキサノンオキシムからカプロラクタムを合成する実験について、カプロラクタム,ベックマン転位,実験操作という3つのキーワードから説明しました。どの章も重要なのでしっかりと抑えておきましょう。

 

また、参考文献は以下の通りになります。

1、Beckmann,E.Ber.1886,19,998

 

最後になりますが、参考文献以外はコピペ厳禁です。バレます。気を付けてください。自分で理解してまとめてください。

 

また、完全に情報を網羅しきれていないと思いますので、質問等ありましたら、下のコメント欄にコメントお願いします。

今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

 

-理系の教養

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研究者で、思想家で、ゴルフ愛好家の三刀流社会人です。高校時代に野球でイップスになり絶望しましたが、ゴルフに出会いました。今は、研究の合間に、ブログとゴルフをやっています。効率の良い豊かな人生を目指しています。化学・自己啓発・ゴルフについて呟きます。

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