こんにちは、trans(トランス)です。
今回は、カラムクロマトグラフィーによって銅イオンと亜鉛イオンを分離し、溶離曲線を作成する実験について解説いたします。
まず、カラムクロマトグラフィーの章では、カラムクロマトグラフィーとは何か,原子吸光分析との組み合わせ方,溶離曲線とは何かなどを解説をいたします。
次に、実験操作の章では、実験で使用する試薬の調製方法や、銅イオンと亜鉛イオンの分離の境目を見極める方法などを解説いたします。
最後に、データ分析の章では、銅イオンと亜鉛イオンを分離できる原理や、実験条件を変えた時の溶離曲線の変化などについて解説いたします。
実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて、予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。
レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことに興味があれば、読んでみてください。
それでは行きましょう!
1、カラムクロマトグラフィー
カラムクロマトグラフィーとは、筒状の容器に充填剤(カラム)を詰めた固定相、そこに流す溶液を移動相とし、この移動相中の各物質の固定相に対する吸着度の違いにより、分離を行うクロマトグラフィーのことをいいます。
カラムクロマトグラフィーは移動相が、気体か液体かによって、ガスクロマトグラフィーと液体クロマトグラフィーに分けられます。
今回の実験では、このうちの液体クロマトグラフィーを用いています。さらに、細かく分類をするとイオンクロマトグラフィーを使用しています。よって、この記事では、イオンクロマトグラフィーの原理や測定方法について、ご説明いたします。
イオンクロマトグラフィーでは、カラム中での測定対象イオンと溶離液イオンのイオン交換体に対する吸着度の違いを利用して分離を行っています。
測定対象イオンは、イオン交換体の表面に存在する溶離液とイオン交換を起こし、カラムに吸着します(①とします)。その後、再び測定対象イオンが溶離液とイオン交換をします(②とします)。
①,②を繰返しながら、測定対象イオンはカラム内を移動して分離をしていきます。
今回の実験では、カラムに陰イオン交換樹脂(Dowex 1×8 100~200mesh)を用いています。
この製品は、株式会社ワコーケミカルが製造し、富士フィルム和光純薬工業株式会社が発売している強塩基性I型陰イオン交換樹脂(Cl型)のことであります。耐用温度は100 ℃、pHは0~14まで使用可能であります。
このような陰イオン交換樹脂の代表的な陰イオンに対する吸着度(選択性)は以下のようになります。
SO42->NO3->Br->Cl->CH3COO->OH-,F-
今回の実験では、金属イオンのクロロ錯体(陰イオン錯体)の吸着と、錯形成される量の差により金属の分離を行っています。
詳しくは一番最後の「3、データ分析」の章で解説しておりますので、そちらをご覧下さい。
今回の実験では、カラムクロマトグラフィーによって分離された銅イオンと亜鉛イオンを原子吸光分析により定量し、溶離曲線を作成しています。
原子吸光分析の原理などについては、過去に、「原子吸光分析法によるミネラルウォーター中のNaとCaの定量」という記事を書いていますので、ここでは銅イオンと亜鉛イオンの原子吸光分析に検出限界が、それぞれ1 ppbと2 ppbであるという情報のみ記載しておきます。
ちなみに、溶離曲線とは、横軸に溶出量,縦軸にイオン濃度を取ったもので、2つの物質(今回は銅イオンと亜鉛イオン)が分離されているかを確認する曲線のことです。今回の実験では、5 mLずつ採取して濃度を測定しているので、下図のように棒グラフで表されます。
2、実験操作
まず、今回の実験で使用する試薬の調製法について説明いたします。
まずは、銅イオンと亜鉛イオンを混合した試料溶液についてです。
今回は、硫酸銅(Ⅱ)5水和物と硫酸亜鉛(Ⅱ)7水和物を純水で溶解し、全量を250 mLとした場合についての銅及び亜鉛濃度について解説いたします。
硫酸銅(Ⅱ)5水和物はCuSO₄・5H₂O、硫酸亜鉛(Ⅱ)7水和物はZnSO₄・7H₂Oと表されるので、それぞれ1 molに対して1 molの銅イオンと亜鉛イオンが存在します。
つまり、硫酸銅(Ⅱ)5水和物の採取量をa(g)、硫酸亜鉛(Ⅱ)7水和物の採取量をb(g)とすると、以下の式でそれぞれの濃度を求めることができます。
硫酸銅(Ⅱ)5水和物中の銅イオン濃度:(a (g) ÷ 249.68(g/mol) 硫酸銅(Ⅱ)5水和物のモル質量)÷ 0.25 (L)
硫酸亜鉛(Ⅱ)7水和物中の亜鉛イオン濃度:(b(g) ÷ 287.55(g/mol) 硫酸亜鉛(Ⅱ)7水和物のモル質量)÷ 0.25 (L)
次に、濃縮させた試料溶液を溶解・洗浄させるための8 mol/L塩酸の調製方法について、ご説明いたします。
今回は200 mLを調製する場合を考えていきます。
濃塩酸の濃度は12 mol/Lですので、希釈倍率をXとすると、「X × 8 = 12」より、X=1.5となります。
つまり、濃塩酸を1.5倍に希釈して合計200 mLあげれば良いので、「200÷1.5≒133」より、濃塩酸を133 mL分取し、蒸留水で合計が200 mLになるように希釈すれば、8 mol/L塩酸を200 mL調製することができます。
これらを簡単な式で表すために、元の薬品の濃度をA mol/L,調製したい濃度をB mol/L,調製したい全体体積をC mLとすると元の薬品の分取量は以下のように求めることができます。
元の薬品の分取量(mL)=(B/A)×C
次に、銅イオンと亜鉛イオンの分離の境目を見極める方法について解説いたします。
以下の式で示したようなフェロシアンカリウムと銅の反応を利用して、境目を見極めることができます。
2CuSO4 + K4[Fe(CN)6] → Cu2[Fe(CN)6] + 2K2SO4
フェロシアン化銅 Cu2[Fe(CN)6]は、褐色の沈殿であり、この時、生成するフェロシアン化銅の溶解度積は1.256×10-7(mol3/L3)であります。つまり、以下のような式のときに、沈殿が析出することになります。
[Cu2+]2[Fe(CN)64-] > 1.256×10-7 (mol3/L3)
さらに、今回の実験は0.25 mol/Lのフェロシアン化カリウムを使っているので、上式の[Fe(CN)64-]に0.25 mol/Lを代入すると以下のようになります。
[Cu2+]2×0.25(mol/L)>1.256×10-7(mol3/L3)
[Cu2+]2>5.0×10-7(mol2/L2)
[Cu2+]>7.1×10-4(mol/L)
すなわち、銅イオンが7.1×10-4 mol/L以上存在するときに沈殿として析出します。
さらに、ppmに換算するために、molをmgに変換すると以下のようになります。ちなみに、銅のモル質量は63.546 (g/mol)で計算しています。
7.1×10-4(mol) × 63.546 (g/mol) × 1000 (mg/g) ≒ 45mg
ppmはmg/Lで定義されるので、銅イオンが45ppm以上の時に、沈殿を析出できることが分かります。
つまり、フェロシアン化カリウムを溶出液に滴下することにより45ppm以上の銅を確認することができるので、溶出液の褐色沈殿が無くなったときに、銅イオンは全て溶出されたと判断することができ、亜鉛イオンの溶出に切り替えることができます。
3、データ分析
銅イオンと亜鉛イオンを分離できる原理を説明する前に、それぞれの塩酸濃度に応じての化学形の変化について説明いたします。
まず、銅と塩酸の反応を示します。ここでは、話を分かりやすくするために、銅(Ⅱ)イオンと塩化物イオンの反応式として記載します。
Cu2++Cl-→CuCl+
CuCl++Cl-→CuCl2
CuCl2+Cl-→CuCl3-
CuCl3-+Cl-→CuCl42-
ここで、陰イオン錯体であるCuCl3-とCuCl42-がカラムに吸着するので、全体の濃度をCCuとして、その中での陰イオン錯体の存在割合を求めます。
それぞれの平衡に対する逐次生成定数は以下の値と分かっています。
CCuの物質収支は以下のようになります。
さらに、逐次生成定数を用いて表すと以下のようになります。
逆数をとると以下のようになります。
逐次生成定数は既知であるので、①の式に塩化物イオン濃度を代入すると、[CuCl3-]の存在度が分かります。
上記の式変形と同様にして、[CuCl42-]の存在度を求める式を算出すると以下のようになります。
ここで①+②をすると銅の陰イオン錯体の存在度が分かります。
また、各塩化物イオン濃度を代入して求めた銅の陰イオン錯体の存在度を下表に示します。
次に、亜鉛と塩酸の反応を示します。ここでも、話を分かりやすくするために、亜鉛イオンと塩化物イオンの反応式として記載します。
Zn2++Cl-→ZnCl+
ZnCl++Cl-→ZnCl2
ZnCl2+Cl-→ZnCl3-
ZnCl3-+Cl-→ZnCl42-
ここで、陰イオン錯体であるZnCl3-とZnCl42-がカラムに吸着するので、全体の濃度をCZnとして、その中での陰イオン錯体の存在割合を求めます。
それぞれの平衡に対する逐次生成定数は以下の値と分かっています。
Cuの時と同様に求めると、ZnCl3-(式③)とZnCl42-(式④)の存在度は以下のように表すことができます。
ここで③+④をすると亜鉛の陰イオン錯体の存在度が分かります。
また、各塩化物イオン濃度を代入して求めた亜鉛の陰イオン錯体の存在度を下表に示します。
お待たせしました。ここまで来て、ようやく銅イオンと亜鉛イオンを分離できる原理について説明することができます。
塩酸濃度が1 mol/Lのときの陰イオン存在度を表1と表2を参考に見てみましょう。
銅イオンは0.3 %程度であるのに対して、亜鉛イオンは43 %程度存在しています。今回のカラムは陰イオンのみを吸着します。したがって、塩酸濃度が高い場合は、大多数の銅イオンは吸着できず溶出し、半分程度の亜鉛イオンはカラムに吸着するということが分かると思います。
一方、塩酸濃度が0.001 mol/Lのときの陰イオン存在度を表1と表2を参考に見てみましょう。
銅イオン,亜鉛イオン共に、ほとんど存在していないことが分かります。今回のカラムは陰イオンのみを吸着します。したがって、塩酸濃度が低い場合は、大多数の銅イオンと亜鉛イオンは吸着できず溶出するということが分かると思います。
つまり、塩酸濃度が高いときは銅イオンのみが溶出し、次に濃度の低い塩酸を通過させることで残っている亜鉛イオンを溶出させることができます。今回は亜鉛イオンの塩酸濃度ごとの化学系の変化差によって銅イオンと分離している実験ということができます。
この章の最後に、実験条件を変えた時の溶離曲線の変化について説明いたします。
今回は3パターンについて考えていこうと思います。
①流速を上げた場合
塩酸濃度を変えずに流量を上げた場合は以下のような溶出曲線になることが予想されます。
「1、カラムクロマトグラフィー」で示した溶出曲線と比較して、ほとんど変化が無いことが分かると思います。
強いて言うのであれば、それぞれのピーク幅が狭くなっていることくらいだと思います。これは、横軸の目盛りを細かくすれば、「1、カラムクロマトグラフィー」で示した溶出曲線ような形になるため問題ありません。
しかし、流速を早くしすぎると、ピークが十分に表れなかったり、亜鉛の陰イオン錯体が溶離液とイオン交換したときに流出してしまうなどの問題が発生し、銅と亜鉛の分離はできないことが予想れます。つまり、基本的には1~2 mL/minの流速でカラムクロマトグラフィーは行うべきであると結論付けることができます。
②濃度を2倍にした場合
流速を変えずに塩酸濃度を2倍にした場合は以下のような溶出曲線になることが予想されます。
今回の実験は1 mol/L塩酸と0.001 mol/L塩酸を使用しているので、そこを基準として解析をしていきます。
表1,2の2 mol/Lについての陰イオン錯体の存在度をみると、銅イオンが1 %程度、亜鉛イオンが82 %程度であることが分かります。
また、0.002 mol/Lの時も同様に見ると、銅イオン,亜鉛イオン共に、ほとんど存在していないことが分かります。
塩酸濃度が2 mol/Lでは、銅は1 mol/Lのときの陰イオン錯体の存在度に比べて多少高くなっていますが、亜鉛は1 mol/Lのときの陰イオン錯体の存在度に比べ、2 mol/Lのほうが、はるかに高くなっていることが分かります。ここから、2 mol/Lのほうが亜鉛の吸着率が高いことが分かります。
「1、カラムクロマトグラフィー」で示した溶出曲線からの変化を考えるならば、亜鉛の溶離曲線のみ右方向にずれてピークを、よりはっきり分けることができるという考えられます。すなわち、1 mol/Lのときに比べて銅と亜鉛の分離は、より精度を高く行うことができると推測できます。
③濃度を半分にした場合
流速を変えずに塩酸濃度を半分にした場合は以下のような溶出曲線になることが予想されます。
今回の実験は1 mol/L塩酸と0.001 mol/L塩酸を使用しているので、そこを基準として解析をしていきます。
表1,2の0.5 mol/Lについての陰イオン錯体の存在度をみると、銅イオンが0.05%程度、亜鉛が10 %程度であることが分かります。
また、0.0005 mol/Lの時も同様に見ると、銅イオン,亜鉛イオン共に、ほとんど存在していないことが分かります。
銅の陰イオン錯体の存在度は、本実験の濃度でも、半分の濃度でも低いので、特に溶離曲線には影響を及ぼさないです、1 mol/Lのときの亜鉛の陰イオン錯体の存在度に比べ、0.5 mol/Lのほうが、はるかに低くなっていることが分かります。
すなわち、1 mol/Lの塩酸濃度のときよりも陰イオン交換樹脂に対する吸着度が下がり、亜鉛も0.5 mol/Lで、かなり多く溶離してしまうことが予想されます。すなわち、ピークが混同し、銅と亜鉛の分離はできないと判断することができます。
4、~まとめ~
いかがでしたか?
今回は、カラムクロマトグラフィーによって銅イオンと亜鉛イオンを分離し、溶離曲線を作成する実験について、カラムクロマトグラフィー,実験操作,データ分析という3つのキーワードから説明しました。どの章も重要なのでしっかりと抑えておきましょう。
また、参考文献は以下の通りになります。
1、佐竹一夫「クロマトグラフィー共立全書」1945年,共立出版
最後になりますが、参考文献以外はコピペ厳禁です。バレます。気を付けてください。自分で理解してまとめてください。
また、完全に情報を網羅しきれていないと思いますので、質問等ありましたら、下のコメント欄にコメントお願いします。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。