こんにちは、trans(トランス)です。
今回は、寿命の短い放射性核種である²²²Rnから²¹⁴Pbと²¹⁴Biを分離し、測定する実験について解説いたします。
まず、ウランの章では、²³⁸Uの壊変系列や、今回の実験に関連する単語の解説をいたします。
次に、データ分析の章では、実際のデータを使用した分析について解説いたします。
実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて、予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。
レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことに興味があれば、読んでみてください。
それでは行きましょう!
1、ウラン
まず、²³⁸Uの壊変系列について解説いたします。
解説というよりは、下図のような変化を²³⁸Uの壊変系列といいますので、下図を抑えてもらえれば問題ありません。
また、今回の実験で重要となる核種の半減期は以下の通りです。
226Ra:1.60×103年、222Rn:3.8235日、218Po:3.10分、214Pb:26.8分、214Bi:19.7分
これらの値を見ると214Pbと214Biの半減期(寿命)が非常に短いことが分かると思います。
そのため、今回の実験は放射性核種を使用しますが、人体に対しても、実験室の汚染に対しても安全であります。
ちなみに、壊変前の核種を親核種,壊変後の核種を娘核種といいます。
つまり、214Pbと214Biの関係性は、214Pbが親核種、214Biは娘核種ということができます。
ここからは単語について説明いたします。
まず、放射平衡についてです。
放射平衡とは、親核種と娘核種の放射能の量的関係が一定の比率で推移する状態のことです。
親核種も娘核種も一定の半減期を持っているので、親核種が生成されてからある程度の時間が経過すると両社の比率は一定に推移していきます。
次に、担体についてです。
担体とは、微量の放射性物質を分離する際に、その放射性物質と化学的性質が同じか似ている物質を加えることで、分離を簡単にする物質のことです。
今回の実験では、試料中に含まれる214Pbと214Biが微量ですので、Pb²⁺とBi³⁺を担体として加えることで反応性を上げています。
まず、硫酸を加えて214PbをPbSO₄として沈殿させますが、Pb²⁺を加えない場合、少量すぎて沈殿しない恐れがあります。ろ過により沈殿を採取し、Pb試料として、薄いAl製吸収板と厚いAl製吸収板を隔ててGM計数管にて経過時間ごとの計数測定を行います。
その後、214Biを含むろ液に追加の担体としてFe³⁺を加えた後に、アンモニア水によってBi(OH)₃とFe(OH)₃として沈殿させます。こちらもBi³⁺やFe³⁺を加えない場合、少量すぎて沈殿しない恐れがあります。また、Pb試料と同様に、ろ過により沈殿を採取し、Bi試料として、薄いAl製吸収板と厚いAl製吸収板を隔ててGM計数管にて経過時間ごとの計数測定を行います。
放射線に関する簡単な単語を解説していませんが、それについては「GM計数管によるβ線の測定 ~β線,ウラン,GM管,データ分析~」で解説しているので合わせてご覧ください。
2、データ分析
まず、今回の実験で得られたPb試料の薄いAl製吸収板(以下CPb)と厚いAl製吸収板(以下C’Pb)、Bi試料の薄いAl製吸収板(以下CBi)と厚いAl製吸収板(以下C’Bi)の4データについて経過時間と正味計数率の関係は以下の通りになります。
上図からPb試料は緩やかなカーブ、Bi試料は直線を描いていることが確認されます。
これは、Pb試料中に、214Pbと214Biが混在しているためです。ちなみに後半部分が直線になっているのは放射平衡のためだと考えられます。
Bi試料は娘核種である210Poの半減期が22.3年であるため、娘核種の影響を受けていません。
Bi試料から得られた直線は、指数近似によって直線式を得ることができます。
ちなみに上図からCBi:y=10.121e-0.027x,C’Bi:y=3.7842e-0.026xという式を得ることができました。
それぞれの半減期は正味計数率が半分になる値を入れればよいので、5.0605と1.8921をyに代入して、25.7分及び26.7分と得ることができます。
文献値は19.7分ですので、この差について考察してみるのも良いと思います。
また、「C(計数率)=ε(計数効率)×R(壊変率)」の関係が成り立ち、壊変率は核種によって決まっているので、条件を変えた同じ核種の計数率を割ることで計数効率の比を求めることができます。
従って、両直線の傾きである10.121と3.7842を割ることで、計数効率の比は、3.7842÷10.121≒0.374と求めることができます。
先ほどPb試料が緩やかなカーブを描くのは、214Pbと214Biが混在するためと説明しましたが、実は厚いAl製吸収板では214Pbから放出されるβ線は吸収されてしまいます。
従って、C’Pbの最初の方をよく見ると上に凸の放物線のような形をしていることが分かります。これは、C’PbはPb試料中の214Biのみを測定していることを意味しています。
先ほど、CBiとC’Biで厚いAl製吸収板と薄いAl製吸収板の214Biに対する関係性を確認したので、この計数効率の比を使って、CPbの214Biのみの測定値(以下CPbBi)を算出することができます。具体的には厚いAl製吸収板から薄いAl製吸収板への変換なので、上記の計数効率の比0.374の逆数である2.67をCPbにかけることで算出することができます。
CPbBiを含む図は以下のようになります。黒い点がCPbBiを表しています。
さらに、CPbは214Pbと214Biの両方の測定値,CPbBiはCPb中の214Biのみの測定値であることを考えると、CPbからCPbBiの値を差し引くことで、CPb中の214Pbのみの値(以下CPbPb)を算出することができます。緑色の点が、CPbPbを表しています。
これらの操作によって、寿命の短い放射性核種である²²²Rnから²¹⁴Pbと²¹⁴Biを分離し、測定した値から、データを分析することができました。
3、~まとめ~
いかがでしたか?
今回は、寿命の短い放射性核種である²²²Rnから²¹⁴Pbと²¹⁴Biを分離し、測定する実験について、ウラン,データ分析という2つのキーワードから説明しました。どの章も重要なのでしっかりと抑えておきましょう。
また、参考文献は以下の通りになります。
1、浜田達二,大塚巌「ラジオアイソトープ講義と実習(第3版),日本アイソトープ協会」1975年,丸善出版,p28, 278, 374
最後になりますが、参考文献以外はコピペ厳禁です。バレます。気を付けてください。自分で理解してまとめてください。
また、完全に情報を網羅しきれていないと思いますので、質問等ありましたら、下のコメント欄にコメントお願いします。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。