
こんにちは、trans(トランス)です。
今回は、過マンガン酸カリウム酸化によってシクロヘキサノンからアジピン酸を合成する実験について解説いたします。
まず、アジピン酸の章では、物理定数や本実験の反応式について説明いたします。
次に、実験操作の章では、各実験操作のポイントについて解説いたします。
最後に、工業応用の章では、ナイロン6,6の工業的製法について解説いたします。
実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて、予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。
レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことに興味があれば、読んでみてください。
それでは行きましょう!
1、アジピン酸

まず、原料となるシクロヘキサノンと、最終的に合成するアジピン酸の物理定数を示します。
<シクロヘキサノン>
・化学式:C₆H₁₀O
・モル質量:98.15 g/mol
・沸点:155.6 ℃
・融点:-16.4 ℃
・水に対する溶解度:0.0058 g/100 mL(25 ℃)
・外観:無色液体
・構造式:
<アジピン酸>
・化学式:C₆H₁₀O₄
・モル質量:146.14 g/mol
・沸点:338 ℃
・融点:152 ℃
・水に対する溶解度:1.4 g/100 mL(15 ℃)
・外観:無色粉末
・IUPAC名:ヘキサン二酸
・構造式:
シクロヘキサノンは、過マンガン酸カリウムによって酸化され、以下の反応式でアジピン酸を合成します。

2、実験操作

本実験では過マンガン酸カリウム以外に水酸化ナトリウムを加えて反応を行います。まずは、その理由について解説いたします。
通常、過マンガン酸カリウムはケトンとは反応しません。
しかし、以下に示した反応機構のように水酸化ナトリウムを加えることで水素が1つ引き抜かれ、シクロヘキサノンがエノール化します。
エノール化するとアルケンとなり、アルカリ条件下ですので、アルコールに酸化されるというわけです。

次に、過マンガン酸カリウムによって酸化されたシクロヘキサノンをろ過した後に、酸性化する理由について説明いたします。
上記にも示したように、アルカリ条件下でアジピン酸の合成を行っているため、実はアジピン酸ではなく、アジピン酸ナトリウムが合成されています。したがって、以下の化学反応式のように酸性化することでアジピン酸に変化させています。
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ちなみにアジピン酸ナトリウムの水に対する溶解度は59 g/100 mLですが、アジピン酸の水に対する溶解度は1.4 g/100 mLであるため、結晶化がし易くなります。
ちなみに、酸性化したアジピン酸を吸引ろ過によって回収した際に得られたろ液を濃縮することでろ液中に溶解していたアジピン酸を析出させることができます。これを再度ろ過することで収率を上げることができます。
3、工業応用

多くの工業原料として利用されるナイロン6,6は、今回の実験で合成したアジピン酸とヘキサメチレンジアミンが縮合重合することで合成されます。
ここで面白いのが、ヘキサメチレンジアミンもアジピン酸から合成されます。ですので、この章では、アジピン酸からヘキセメチレンジアミンを合成する方法について解説していきます。
以下の経路でアジピン酸からヘキセメチレンジアミンを合成することができます。

まず、アジピン酸にアンモニウムと共に脱水触媒を加えて脱水することでアジポニトリルを得ます(ニトリル化)。
次に、アジポニトリルを、Cu,Ni,Co,Zn,Pdを触媒としてアンモニア存在下で、水素付加することでヘキサメチレンジアミンを得ることができます。
ちなみにナイロン6,6については、「ナイロン-6,6の合成 ~縮合重合反応,ナイロン-6,6~」という記事で詳しく書いていますので興味のある方は、そちらもご覧ください。
4、~まとめ~
いかがでしたか?
今回は、過マンガン酸カリウム酸化によってシクロヘキサノンからアジピン酸を合成する実験について、アジピン酸,実験操作,工業応用という3つのキーワードから説明しました。どの章も重要なのでしっかりと抑えておきましょう。
また、参考文献は以下の通りになります。
1、伊藤 昌寿:化学と工業,p、21,527(1968)
最後になりますが、参考文献以外はコピペ厳禁です。バレます。気を付けてください。自分で理解してまとめてください。
また、完全に情報を網羅しきれていないと思いますので、質問等ありましたら、下のコメント欄にコメントお願いします。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。



