こんにちは、trans(トランス)です。
今回は、ICP発光分析法によって水試料(水道水,海水,ミネラルウォーター)中に含まれるナトリウム,マグネシウム,カルシウムを定量する実験について解説いたします。
まず、ICP発光分析の章では、ICP発光分析の原理や、ICP発光分析装置の構造、原子吸光分析法との比較などを解説いたします。
次に、実験操作の章では、実験器具の洗浄や試薬調製などについて解説いたします。
最後に、データ分析の章では、有効数字や最小自乗法などに解説いたします。
実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて、予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。
レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことに興味があれば、読んでみてください。
それでは行きましょう!
1、ICP発光分析
まず、ICP発光分析の原理について説明いたします。
Arガスを高周波によりプラズマ化させ、6,000 K以上の高温状態にすることからICP発光分析の話しが始まります。
プラズマ中では、イオンや電子が電界による加速で運動エネルギーを得て、それが他の粒子と衝突し失うことを繰り返します。
このエネルギー(今回はArガス)が励起エネルギーよりも高いエネルギーであれば、原子は基底状態から励起されます。また、励起された原子は光を放射することで基底状態に戻る性質があります。
この光エネルギーは、励起エネルギーと基底状態のエネルギーの差に等しいです。各元素の励起準位は固有であるため、元素によって光の波長が異なります。この波長の違いを利用して、同定することができるます。
また、これら複数の光を分光器で分光し、検出することにより、多元素同時分析を行なうことができます。さらに、ある原子の励起状態(n準位)から基底状態(m準位)になる場合、発光する光の強度(Inm)は以下の関係式で表すことができます。
Inm = Nn Anm hν
Inm:発光強度、Nn:原子の密度、Anm:遷移確率、h:プランク定数、ν:光の振動数
プラズマ温度が一定の場合、発光強度はその原子の密度に比例するため、発光強度を測定すれば、原子の存在量を測定することができます。
これにより、各原子の定量をすることができます。この比例関係から検量線を作成し、本実験では定量を行っています。
次に、ICP発光分析装置の構造について説明いたします。
原理にも示したように、Arガスをプラズマ化させる高周波電源(RF電源),脱励起により放出された光を集める集光系,集めた光を分光・検出する分光器と検出器が大まかな構造であります。
ICP発光分析装置は大まかに分けて、波長掃引システムと多元素同時測定システムに分けられますが、今回の実験で使用したのは波長掃引システムであるので、下に波長掃引システムの模式図を示します。
次に、ICP発光分析で定義される「感度」と「検出限界」について説明いたします。
感度とは、測定において、検出限界で示した分析法や、機器の性能のことであると定義されています。
また、検出限界とは、各波長のブランク強度の標準偏差を3倍した濃度であると定義され、ICP発光分析では、特にppb~ppmの濃度を検出限界としています。
ICP発光分析のCaについて、2つの分析波長で異なった検量線を作成することができます。
次に、この2つの違いについて説明いたします。
この2つの違いは、励起波長の違いによるものです。
なぜ、カルシウムが励起波長を2つ持つかまでは分かりませんでしたが、おそらく3d軌道を飛ばして、4s軌道に電子が入ることが関係しているのではないかと考えています。
分かる方がいたら、ご教授いただけると幸いです。
ICP発光分析では、分光干渉という現象が起きることがあります。
次に、この分光干渉について説明いたします。
分光干渉とは、ICP発光分析において試料中に含まれる元素のほとんどは発光するため、目的元素以外の元素の輝線スペクトルが影響を及ぼすことです。この影響を無くすためには、分光器の性能を上げることが一番ですが、性能には技術的限界があるため、一般的にはピークの頂点から左右にずらした位置の強度測定により、ピーク位置でのバックグラウンド強度を推定し、補正することにより、この影響を減らしています。
この他にも、物理干渉、イオン化干渉などが干渉の種類としてあります。これらの干渉について説明し、解決方法の一例を記載します。
まず、物理干渉についてです。
物理干渉とは、ICP発光分析において試料をネブライザー(噴霧器)を用いて霧化するときに発生する霧の分布は、密度・粘度などによって決まるため、検量線作成用の標準溶液と試料溶液の液性が異なるときに、プラズマへの導入効率に差が生じることで起きる干渉のことです。近年は、試料送液用のリペスタルティックポンプを装備することにより、この干渉は軽減されています。
次に、イオン化干渉についてです。
イオン化干渉とは、励起状態から基底状態に戻るときにICP中では電子密度が高いため、電子と中性原子が高確率で衝突し、多くの原子はイオン化しすることで中性原子線ではなくイオン線を放出してしまうことで起きる干渉のことです。この補正には、標準添加法が有効です。
この章の最後に、原子吸光分析法と比較してICP発光分析法が優れている点について説明いたします。
ICP発光分析法が原子吸光分析法よりも優れているところは、多元素同時分析ができることです。
一方、原子吸光度分析法では、元素ごとに特定のランプを用いる必要があるため1つの元素ずつしか分析することができません。
過去に、「原子吸光分析法によるミネラルウォーター中のNaとCaの定量」という記事を書いていますので、興味のある方は、こちらもご覧ください。
2、実験操作
まず、今回の実験で使用する器具の洗浄方法について説明いたします。
今回の実験では、ナトリウム,マグネシウム,カルシウムの濃度を求めます。つまり、器具をナトリウム,マグネシウム,カルシウムが含まれる水道水で洗ってしまうと実験値を狂わせてしまう恐れがあります。よって、今回の実験で使う器具の洗浄方法としては、純水で洗い流すことによる洗浄のみが良いと言えます。
次に、本実験での試薬調製について解説いたします。
「そんなのいる?」と思うかもしれませんが、本実験では重量法を用いて調製してますので、重量法の説明も含めて解説していきます。
重量法とは、ある物質の重量を基準に希釈することです。つまり、単位は(w/w)で表されます。
利点としては、重量により希釈倍率を設定できるので少量でも調製が可能な点であります。欠点としては、毎回、重量を測定する必要があるので時間が掛かることです。
重量法以外の試薬調製法に容量法というものがあるので、こちらについても説明いたします。
容量法とは、ある物質を容積を基準に希釈することです。つまり、単位は(w/v)で表されます。
利点としては、基準とする容積がメスフラスコ等で、すでに決められていて、分取の際もホールピペットを用いればよいので、迅速に進めることができます。欠点としては、設定濃度によっては試料を大量に使うことがあることです。
容量法については、過去に、「原子吸光分析法によるミネラルウォーター中のNaとCaの定量」という記事で詳しく書いていますので、興味のある方は、こちらもご覧ください。
ですので、今回は重量法について具体例を示して説明いたします。
例えば100 ppmのMg,Ca標準溶液と1,000 ppmのNa標準溶液からMg,Caを10 ppm、Naを100 ppm含む溶液を25 g調製する場合を考えます。
全ての標準溶液を10分の1の濃度に調製すればよいので、各標準溶液を2.5 gずつ分取し、残りの17.5 gを蒸留水で希釈することで調製することができます。
標準溶液の濃度をA ppm,標準溶液から調製したい濃度をB ppm,調製したい溶液の全体重量をC gとすると以下の式から各溶液の分取に必要な量を求めることができます。
標準溶液から分取する重量(g)=(B/A)× C
蒸留水量(g)=C-標準溶液から分取する重量(g)
鋭い人は気付いたかもしれませんが、上記の式の(B/A)は希釈倍率の逆数を意味します。したがって、濃度不明の溶液であっても、希釈倍率と調製後に得たい重量が分かれば計算することができます。
例えば、濃度不明の未知試料を50倍希釈した溶液を25 g得たい場合は、「(1÷50)×25=0.5」より、未知試料から0.5 g分取し、残りを蒸留水にて全量が25 gになるように加えることで得ることができます。
3、データ分析
まずは加減算,乗除算を行う時の有効数字について解説いたします。
超基本な項目ではありますが、データ分析において、重要な項目ですので、解説いたします。
①加減算
小数点以下の桁数が最も小さい数の桁に合わせます。
例えば、以下のように小数点以下第1位と第2位を計算した場合の計算結果は、小数点以下第1位に合わせます。
(例)
1.5-0.23=1.27
≒1.3
②乗除算
全ての桁数が最も小さい数に合わせます。ただし、0から始まる場合、0以外の数字が初めて出てきたところから桁数を数え始めます。
例えば、以下のような2桁と3桁を計算した場合は、最終の計算結果を2桁に合わせます。
(例)
0.51×1.23=0.6273
≒0.63
次に、最小二乗法について説明いたします。
最小二乗法とは、測定点の直線のずれの二乗の合計和が最小となるような傾きと、切片を定めることであります。
今回は検量線を作成しますが、その際に最小二乗法を用いることで、バラつきの最も小さい直線を作成することができます。
直線の式を、「y=ax+b」とすると以下の式で傾きと切片が求まります。
a=Σ(xi-X)(yi-Y)/Σ(xi-X)2
b=Y-aX
xi:ある与えられたxの値、X:すべてのxiの値の平均値
yi:ある与えられたyの値、Y:すべてのyiの値の平均値
本実験では、Excelを用いて検量線を作成しているので、Excelでの最小二乗法が良くまとまった別の方が書かれた記事のリンクを以下に載せておきます。
最小二乗法にて作成した検量線y=ax(x軸を濃度,y軸を発光強度とする)を利用して、得られた未知試料の発光強度を検量線の傾きaで割ることで、濃度を算出することができます。ただし、ランベルト-ベールの法則は濃度が薄い溶液に限定されますので、検量線の範囲を越える発光強度となった場合は、さらに希釈して再度測定を行う必要があります。
最後に、水道水,海水に含まれるNa,Ca,Mgの濃度について紹介いたします。
この値を参考に、未知試料同定してもらえればと思います。
4、~まとめ~
いかがでしたか?
今回は、ICP発光分析法によって水試料(水道水,海水,ミネラルウォーター)中に含まれるナトリウム,マグネシウム,カルシウムを定量する実験をICP発光分析,実験操作,データ分析という3つのキーワードから説明しました。どの章も重要なのでしっかりと抑えておきましょう。
また、参考文献は以下の通りになります。
1、佐藤一男,坂田昌弘「分析化学」1985年,p271~275
最後になりますが、参考文献以外はコピペ厳禁です。バレます。気を付けてください。自分で理解してまとめてください。
また、完全に情報を網羅しきれていないと思いますので、質問等ありましたら、下のコメント欄にコメントお願いします。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
[…] 過去に、「ICP発光分析による水試料中のNa,Mg,Caの定量 ~ICP発光分析,実験操作,…という記事を書いていますので、興味のある方は、こちらもご覧ください。 […]