こんにちは、trans(トランス)です。
今回は、前回紹介した「酸化還元滴定による鉱石中の鉄の定量」で得られた硫酸イオン(SO₄²⁻)を用いた重量法による鉱石中の硫黄の定量について紹介していきます。
まず、沈殿重量法の章では、重量沈殿法でポイントなる原理や鉱石中の硫黄の質量%の算出方法などを解説いたします。
次に、実験操作の章では、傾斜法,るつぼの恒量,沈殿精製などを解説いたします。
実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて、予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。
レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことに興味があれば、読んでみてください。
それでは行きましょう!
1、沈殿重量法
沈殿重量法とは、ある溶液内に含まれる目的の物質を、別の物質(沈殿剤)を加えることで沈殿させ、溶液と沈殿物を分けることで、目的の物質の量を測定する分析方法です。
今回は、溶液中に含まれている硫酸カリウム(K₂SO₄)に、沈殿剤として塩化バリウム(BaCl₂)を加えることで、沈殿物として硫酸バリウム(BaSO₄)を得て、それを秤量することで、鉱石中の硫黄の質量%を算出する実験について解説いたします。反応式は以下の通りです。
K₂SO₄ + BaCl₂ → BaSO₄ + 2KCl
ちなみに、鉱石中の硫黄の質量%は以下の式によって算出することができます。
ここからは、上記実験をする際の注意点をいくつか紹介いたします。
①沈殿剤として使用する塩化バリウム溶液は70~80 ℃に加温した状態、試料溶液はpHを1.2~1.3にする必要があります。
これは試料溶液に共存する可能性のある炭酸イオン,シュウ酸イオン,リン酸イオンなどの目的外の物質が塩化バリウムと反応して沈殿物を生成することを防ぐためです。
これらのバリウム塩は、温度が高く、pHが低い場合、溶解度が上がるので沈殿として生成されることを防ぐことが出来ます。
②生成した沈殿を洗浄する際に洗浄した溶液中にCl⁻が無くなるまで、洗浄する必要があります。
これは沈殿物の周りや内部に含まれる不純を取り除くことが目的です。今回は沈殿反応時に発生した塩化カリウムが大多数の不純物であると考え、これを取り除ければ洗浄が出来たと判断しています。
ちなみに洗浄溶液のCl⁻の有無を確認する方法は、硝酸銀を洗浄溶液に添加し、白色沈殿(AgCl)が見られれば、洗浄不足、白色沈殿が見られなければ、洗浄完了と判断することが出来ます。反応式は以下の通りです。
Cl⁻ + AgNO₃ → AgCl + NO₃⁻
③今回の実験は得られた沈殿を洗浄し、ろ過をした後に、ろ紙ごと、るつぼに入れて炭化させます。その際の温度は900 ℃以下でなければなりません。
これは、ろ紙の炭素と硫酸バリウムが900 ℃以上で以下のような反応を起こしやすくなるのを防ぐためです。この反応が起きてしまうと得られた質量が硫酸バリウムなのか硫化バリウムなのか分からなくなってしまいます。
BaSO₄ + 4C → BaS + 4CO↑
それでも完全に硫酸バリウムの還元反応を止めることはできないので、灰化後に硫酸を加えて強熱して以下の反応によって、硫化バリウムを硫酸バリウムに戻す操作を行うことが一般的です。ですので、硫酸添加前後の沈殿の質量を比較すると、硫酸添加後の方が質量が大きくなります。
BaS + H₂SO₄ → BaSO₄ + H₂S↑
2、実験操作
この章では、まず傾斜法についてご紹介いたします。
傾斜法とは、別名デカンテーションと呼ばれ、液体と沈殿の混合液体を、静置することで比重の大きい沈殿を下に沈め、液体のみを上澄みとして回収する分離方法です。大まかな分離に適していて、今回の実験では、沈殿を液体で洗浄する際にの洗浄液と沈殿の分離に使用されています。
次に、1つ前の沈殿重量法の章で出てきた「得られた沈殿を洗浄し、ろ過をした後に、ろ紙ごと、るつぼに入れて炭化する」という操作のるつぼの恒量について解説いたします。
重量を測定する際に、その受け皿となるるつぼは一定の値を取らなければなりません。空のるつぼと硫酸バリウムが入ったるつぼの質量さによって硫酸バリウムの量を測定します。そのため、空のるつぼが不安定な値では意味がありません。空のるつぼに揮発性物質を残さないために、空のるつぼを質量が変わらなくなるまで、加熱と放冷を繰り返します。つまり、実験で正確な質量測定をするために、るつぼの恒量は行われます。
最後に、沈殿の精製について仮設いたします。
生成された沈殿を熟成させるために、静置させる必要があります。これは沈殿の表面積を大きくして、不純物を減らすために実施しています。
しかし、熟成だけでは純粋な沈殿を作るのが難しいので、洗浄や再結晶という操作によって、より純粋な沈殿を精製いたします。
洗浄は、前の章で示しているように、沈殿を洗うことで沈殿の内部や表面の不純物を取り除くことにより、純度を高める方法です。
再結晶は、一度沈殿を綺麗な溶媒に溶かし、再度結晶させることにより、沈殿時の溶液の不純物濃度を減らして、純度を高める方法です。
3、~まとめ~
いかがでしたか?
今回は、重量法による鉱石中の硫黄の定量実験を、沈殿重量法,実験操作という2つのキーワードから説明しました。どの章も重要なのでしっかりと抑えておきましょう。
また、参考文献は以下の通りになります。
1、飯田隆,菅原正雄,鈴鹿敢,辻智也,宮入伸一「イラストで見る化学実験の基礎知識 第3版」2014、p 92~95
2、井上達也「THE CHEMICAL TIMES 2005 No.2 (通巻196号)化学分析における基礎技術の重要性(2)」、p 19~21
最後になりますが、参考文献以外はコピペ厳禁です。バレます。気を付けてください。自分で理解してまとめてください。
また、完全に情報を網羅しきれていないと思いますので、質問等ありましたら、下のコメント欄にコメントお願いします。
今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
[…] ⇒鉱石中の硫黄を定量する実験はこちらの記事をご覧下さい。「重量法による鉱石中の硫黄の定量」 […]
[…] 傾斜法については、「重量法による鉱石中の硫黄の定量」という記事でも紹介しているので、合わせて読んでみてください。 […]