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アセトアニリドの合成 ~アセトアニリド,再結晶,TLC(薄層クロマトグラフィー),融点測定~

投稿日:2月 7, 2021 更新日:

こんにちは、trans(トランス)です。

今回は、アニリンと無水酢酸を用いてアセトアニリドの合成(アセチル化)をする実験について紹介していきます。

 

まず、アセトアニリドの章では、アセトアニリドの基本的な物理量や物性,合成法,実験についての注意事項,理論収量や収率の算出方法,反応機構などについて紹介します。

次に、再結晶の章では、再結晶の基本的な原理や今回の実験との関連性について紹介します。

さらに、TLC(薄層クロマトグラフィ―)の章では、TLCの基本的な原理,今回の実験での利用方法,今回の実験のスポットの検出の方法や原理などについて紹介します。

最後に、融点測定の章では、融点測定の原理や今回の実験での利用方法,融点測定で使用するガラスキャピラリー(毛細管)の作成方法を説明していきます。

 

実験の予習をやらなければいけないけど時間が無いという学生に向けて、予習の手間が省けるように、この記事を書いています。スマホを見ながら電車で予習することもできます。実験項目は某大学の実験テキストを参考にしています。

レベル的には、大学の学部生レベルを想定していますが、高校生も化学の発展的なことが知りたければ読んでいただいて構いません。

それでは行きましょう!

 

1、アセトアニリド

アセトアニリドの合成

 

まず、アセトアニリドの構造式は以下のように、ベンゼン環にアミド結合を持った物質です。

アセトアニリドの構造式

 

 

 

 

 

 

 

アセトアニリドは、過去に解熱鎮痛剤として利用されていました。現在は、毒性が高いことから解熱鎮痛剤としては利用されず、医療品や色素の合成中間体酸化防止剤などに利用されています。

また、アセトアニリドの物理定数は以下の通りです。

 

化学式:C₈H₉NO

モル質量:135.16 g/mol

外観の状態:フレーク状の無色固体

密度:1.219 g/cm³

融点:114.3 ℃

沸点:304 ℃

水に対する溶解度:0.56 g/100 mg(25 ℃のとき)

 

 

次に、合成法について紹介します。合成方法は、アニリンと無水酢酸を反応させることによって合成します。もう少し化学的に言うと、アニリンのアミノ基を無水酢酸を用いてアセチル化する反応です。

アセチル化については、以前書いた「サリチル酸メチルの合成(エステル化) ~サリチル酸,サリチル酸メチル~」という記事でも出てきたように様々な場面で出てきます。この記事が気になる人はリンクから見てみ下さい。

 

まあ、難しいことは一旦置いておいて、反応式を見ていきましょう。反応式は以下の通りです。

アセトアニリドの合成式

 

次に、上記の反応式を用いてアニリンに対する過剰量の無水酢酸の質量の計算の仕方について説明します。なぜ、アニリンではなく、無水酢酸を過剰量になるように調整するのかというと、反応終了後に残った場合、無水酢酸は過剰量の水と反応させ酢酸にして簡単に取り除くことが出来るためです。

 

今回は、例として、アニリン 2.0 (g)に対して、モル比で1.3倍量になるような無水酢酸の質量を算出することにします。もしアニリンやモル比の過剰量が異なる場合は、下に示した式の2.0や1.3という数字を代えて算出してください。今回の例の式は以下の通りです。

無水酢酸の必要量の算出式

上記の式から分かるように、アニリン2.0(g)の場合は、無水酢酸は2.9(g)あれば、無水酢酸を過剰量にして反応させることができます。

また、無水酢酸について実験において注意事項があります。先ほども、少し説明しましたが、無水酢酸は水と反応して酢酸を生成します。そのため、合成前に水と無水酢酸を反応させないように、今回の実験ではアセトアニリドの合成をするときに使用する器具は乾燥しているものを使用するようにしてください。

 

あと、あまり関係ありませんが、無水酢酸は酢酸2つが脱水縮合してできたもので、氷酢酸は純度の高い酢酸が室温の低下(16.7 ℃以下)によって凝固したものです。無水酢酸も氷酢酸も、酢酸と名前に付きますが、別物ですので、しっかりと区別できるようにしましょう。

 

 

次に、理論収量と収率の算出方法について説明します。

まず、理論収量についてですが、以下の通りです。

 

アセトアニリドの理論収量

 

 

次に、収率ですが、

 

収率(%)={実際の収量(g)/理論収量(g)}×100(%)

 

という式で算出できます。

 

要は、理論収量さえ分かってしまえば、決して難しくないということです。

 

 

 

最後に、アニリンと無水酢酸からアセトアニリドを生成するときの反応機構を示して、少し解説します。

反応機構は以下の通りです。

 

アセトアニリドの反応機構①

アセトアニリドの反応機構②

 

 

少し上の反応機構を説明する前に、補足的な説明をします。

まず、Phですがフェニル基を表しています。フェニル基とは、ベンゼン環の水素原子が1つ無い状態のことです。今回は、反応機構を書き表すときに邪魔だと思ったので、このように省略した形で書きましたが、ベンゼン環を書いて反応機構を示してもらっても大丈夫です。

また、一部原子の周りにある「」ですが、非共有電子対を示しています。非共有電子対がある原子は、上記に示した以外にも、いくつかあるのですが今回は分かりやすくするために、必要なところ記載だけにしました。

 

 

では、具体的な反応機構の説明をします。

まず、窒素原子の非共有電子対が、無水酢酸のカルボニル炭素(C=)に攻撃をします。これが右から左に行っている矢印の意味です。このときに、攻撃されるカルボニル炭素は、どちらか1つです。

その後、炭素が共有電子対を5つにならないようにするために、酸素原子に非共有電子対として電子を渡します。これが下から上に行っている矢印の意味です。

このような反応によって、2段目の反応中間体を生成します。

 

次に、反応中間体の負の電荷を帯びている酸素原子が、再び二重結合に戻ろうとします。これが、上から下に行っている矢印の意味です。

そうすると、炭素が再び、共有電子対が5つのならないように炭素と酸素をつないでいる共有電子対が外れて、窒素についている水素の1つに攻撃をします。これが、右から左に行っている矢印の意味です。

最後に、正の電荷を帯びている窒素原子を戻すために、水素と窒素をつないでいる共有電子対の電子を供給します。これが、下から上に行っている矢印の意味です。

 

このような反応から、3段目に示したアセトアニリド酢酸が生成されます。

 

 

少し反応機構について、難しかったと思いますが、何となくの流れで良いので、抑えておきましょう。

 

 

 

2、再結晶

再結晶

 

再結晶とは、不純物を含んだ溶質を溶媒に溶かし、溶質の温度による溶解度の差を利用して不純物を取り除き、純粋な結晶(溶質)を得る精製操作のことです。溶解度に関する詳しいことは、「陽イオン定性分析① ~溶解度,沈殿と溶解,王水,水銀(Ⅰ)イオン~」について書いているので、そちらも合わせて読んでみて下さい。

 

今回の実験で合成したアセトアニリドは、水に対する溶解度が、10 ℃では0.441 g/100 mLであるのに対し、50 ℃では1.33 g/100 mLであり、溶媒の温度変化による溶解度が、かなり大きいです。そのため、今回の実験では、結晶の精製方法に再結晶が使われています。

 

 

 

 

3、TLC(薄層クロマトグラフィー)

TLC(薄層クロマトグラフィー)

 

TLC(薄層クロマトグラフィー)についての説明や原理に関しては、「ホウレンソウ色素の分離 ~薄層クロマトグラフィー,ホウレンソウの色素成分~」に書いているので、そちらをご覧下さい。

 

前回、薄層クロマトグラフィーについて書いた時には、分離法として説明しましたが、今回の実験では、定性法として使われているので、そのような観点から説明していこうと思います。

 

TLCプレートを移動する速度は、物質によって異なります。そのため、既知物質と生成された物質の移動距離を比較することによって同定することができます。同じ距離であれば、同じ物質である可能性が高いということです。

 

また、移動距離に関しては、Rf値と呼ばれる移動率で比較します。ちなみに、Rf値=(試料成分の移動距離)/(溶媒先端の移動距離) によって算出されます。

単純な移動距離ではなく、移動率で比較する理由としては、再現性を高めるためです。もし、単純な移動距離で比較してしまった場合、展開溶媒の位置によって移動距離は異なります。ただし、Rf値で算出した場合、展開溶媒に応じた移動率のため、展開溶媒の組成、展開槽内の溶媒の蒸気圧,温度などが同じであれば、高い再現性が得られます。

 

また、Rf値が近い値であっても、異なる物質である可能性があります。そのため、TLCによる定性では、重ね点着試験も同時に行うことが多いです。

重ね点着試験とは、TLCプレート上の同一の位置に、既知物質と生成された物質をスポットし、展開後に1つの円形状になれば同一物質、ひょうたんやダルマのような形状になれば異なる物質であると判断する試験のことです。

 

今回の実験では、アニリンと生成された物質のRf値を比較することにより、Rf値の違いから、アニリン以外の物質になったことを確認し、アセトアニリド標品と生成された物質を重ね点試験することによってアセトアニリドが合成されたこと確認しています。

 

 

この章の最後に、スポットを検出する方法や原理について説明します。今回は、UVランプ照射,硫酸系発色剤,ニンヒドリン溶液を用いた検出について説明します。

 

今回の実験では、全てのスポットに色がついていません。そのため、TLC終了後にスポットを検出する必要があります。そのため、まずUVランプを照射することによって全てのスポットを検出します。基本的には、UVランプ照射後も、スポットを確認できるように、UVランプ照射時に見られたスポットを鉛筆等で囲んでおきます。

UVランプ照射の原理としては、UVランプの共役二重結合を持つ物質のπ(パイ)電子を励起させる性質を利用して、蛍光物質が塗ってあるシリカゲルが光るのに対して、スポットとして現れる共役二重結合を持つ物質はUVランプの光を吸収するため発色しないため、可視下では確認することができないスポットであっても、確認することができます。

本実験では、アニリン、アセトアニリド、反応生成物(アセトアニリド)は、それぞれ構造式上にベンゼン環を持ち、共鳴構造であるのでUVランプは吸収されるため、すべてのスポットを確認することができます。

また、励起については、「化学発光 ~化学発光,ルミノール反応~」で詳しく書いているので、興味のある人は、そちらもご覧下さい。

 

次に、硫酸系発色剤についてですが、こちらも全てのスポットを検出することができます。原理としては、硫酸には脱水作用があり、有機化合物の水素と酸素を取り除き、炭素のみに(炭化)することで、黒色のスポットを検出することができます。

さらに、発色剤に金属(硫酸セリウム、モリブデン酸アンモニウム)を加えることによって、酸化剤として作用し、より炭化しやすくなります。

 

最後に、ニンヒドリン溶液についてですが、ニンヒドリンはアミノ基と反応して、青紫~赤紫色を呈色する性質を持つため、アミノ基を持つ物質のスポットを検出することができます。つまり、今回の実験であれば、アニリンのスポットのみで呈色することになります。

 

 

 

4、融点測定

融点測定

 

融点測定とは、名前の通り物質(特に結晶)の融点を測定することです。融点は物質により、固有の値を持ちます。そのため、物質の融点を測定することで、その物質が何であるか同定することができるのです。また、融点測定は以下のような装置を用いて行います。

 

 

上図のシリコンオイルが入った部分をガスバーナーやオイルバスによって加熱し、温度を上げていきます。このとき、温度を急激に上げすぎてしまうと、どの温度で融解したのか分からなくなるので、1分に1 ℃くらいの速度で温度を上げていくようにしましょう。

また、キャピラリーの先端はできるだけ、温度計の球部の近くに置くようにすることで、測定試料と温度計の温度の差が小さくなり、誤差が減ります。

 

さらに融点測定では、測定する試料の純度によっても違いが見られます。純度が高い物質ほど、融点開始温度と融点終了温度の差が小さくなります。なので、この差を見ることによって純度を調べたりすることもできます。

 

最後に、融点測定で使用するキャピラリーの作り方について紹介します。

まず、ガラス管の一点を加熱し続け、溶けだしたら一気に引っ張ります。その後、両サイドを切断します。これにより、毛細管という細いガラスの管を作成することができます。毛細管の一方の先端を加熱することで、穴を塞ぐことができます。これによって、資料を詰めても、こぼれなくなります。

 

 

 

5、~まとめ~

いかがでしたか?

今回は、アセチル化によるアセトアニリドを合成する実験をアセトアニリド,再結晶,TLC(薄層クロマトグラフィー),融点測定という4つのキーワードから説明しました。どの章も重要なのでしっかりと抑えておきましょう。

 

また、参考文献は以下の通りになります。

1、飯田隆,菅原正雄,鈴鹿敢,辻智也,宮入伸一「イラストで見る化学実験の基礎知識 第3版」2014、p 17,58,196~200

 

最後になりますが、参考文献以外はコピペ厳禁です。バレます。気を付けてください。自分で理解してまとめてください。

今回の記事は以上になります。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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